そうやってやって来たチャンバラ会場には、誰もいなかった。
周囲に立ち並ぶ他の部活のブースには、それなりの人だかりが出来ているのに……。
そんな知っていたはずのことにまで、ちょっぴりショックを受ける。
「マジでもうみんな、鬼退治とか興味ないのかな」
あたしたちの立つ看板の横には、対戦者用のこん棒も用意していた。
腕には巡回中の正式な腕章もしたし、その下には『模擬中』の白い腕章もつけている。
これはちゃんとしたルールだ。
「……。こんなんで、新入部員集まるのかな」
いっちーからの返事はない。
ここでは外の世界みたいに、こん棒をぶら下げて腕組みするあたしたちを笑うような人間はいない。
だけど、だからといって全てを認め受け入れられているワケでもない。
「呼び込みしよう」
こんなこともあろうかと、あらかじめ借りていたプラスチックのメガホンが役に立った。
あたしは大声を張り上げる。
それでもやるって決めたことに、変わりはないのだから。
「鬼退治サークルで、挑戦者を受け付けておりまーす!」
いっちーも大声を張り上げた。
「ももかいっちーの、好きは方を選んでチャンバラ対決出来ますよー!」
呼び込みにも来場者の反応は薄い。
4歳くらいの女の子がこん棒に興味を持ってくれたけど、大きすぎて持ちきれなかった。
中学校の制服を着た男の子数人は、こん棒を手にするまではしてくれたけど、打ち合いまでは至らない。
30代くらいの女の人が一人、「私も昔、本当はやってみたかったのよねー」とか言いながら、話しかけて来てくれた。
数回カツカツと打ち合わせただけで、すぐに「ありがとう」と退散してしまう。
この企画は失敗だったのかな? そんな不安や焦りがピークに達した時だった。
「これは、誰が挑戦してもいいの?」
傘立てに立てかけたこん棒の、一本が引き抜かれる。
「じゃあ、相手してくれる?」
まっすぐにそれを構えたのは、桃だった。
腰には鬼退治専用の公式刀がぶら下がる。
「桃が?」
「ダメ?」
「ダメじゃないよ」
桃の目は、今までに見たこともないほど真剣だった。
あたしは腰のこん棒に手を置く。
「じゃあ、あたしが対戦をお願いしてもいいかな。いっちーの強さは知ってるんでしょ」
「そうだね。お互い手の内やクセを知ってる」
桃はこん棒を構えたまま、ゆっくりと間合いをとる。
こんなところで挑戦を受けて、引き下がれるハズがない。
「じゃ、お願いします」
「こちらこそ」
これがオフザケだとか一時の気の迷いだとか、そんな簡単なものじゃないってことを、知らしめないと。
あたしはこん棒を抜くタイミングを見計らっている。
きっと桃も踏み込むチャンスを見ている。
互いにじっと合わせた視線から、深く集中してゆく。
辺りが急に静かになった。
あたしは腰のこん棒を抜いた。
「ちょっと待ったぁっ!」
ガツンと3本のこん棒が重なり合う。
あたしと桃の間に割り込んできたのは、細木だった。
「何だよ、邪魔すんな!」
あたしは2本のこん棒を真横になぎ払う。
桃と細木は飛び退いた。
細木に向かって振り下ろしたそれは、ガツンと受け止められる。
「くっ……」
やっぱりパワーじゃ敵わない?
そう思った瞬間、細木はあっさりとこん棒を投げ捨てた。
「キミ! その腰の刀は?」
クソダサジャージの細木は、桃に向かって両腕を広げる。
「え? これは鬼退治の……」
「やっぱりそうだよね!」
細木は桃に近寄ると、ガッツリと桃の両手を握りしめた。
「僕はここで鬼退治サークルの顧問をしていてね。もしかして君はこの学校に興味があるのかな?」
「え? えぇ、まぁ……」
「そっか!」
細木が熱い。
「もしよかったら入学案内があるから僕がそこまで案内してあげよう。いやぜひ案内させてくれないか!」
桃からの返事を待たずして、細木はくるりと背を向けた。
「よし、じゃあ行こう!」
「細木!」
あたしはこん棒を振り上げる。
「本当は鬼退治になんか、興味ないくせに!」
振り下ろしたそれを、細木はパッと避ける。
そのまま落ちていたこん棒を拾い上げた。
構わす攻撃を仕掛けるあたしを、奴はガツンと受け止める。
「当たり前だ! 小田先生に言われてやってるだけだ!」
「じゃあなんで割り込んでくるんだよ!」
周囲に立ち並ぶ他の部活のブースには、それなりの人だかりが出来ているのに……。
そんな知っていたはずのことにまで、ちょっぴりショックを受ける。
「マジでもうみんな、鬼退治とか興味ないのかな」
あたしたちの立つ看板の横には、対戦者用のこん棒も用意していた。
腕には巡回中の正式な腕章もしたし、その下には『模擬中』の白い腕章もつけている。
これはちゃんとしたルールだ。
「……。こんなんで、新入部員集まるのかな」
いっちーからの返事はない。
ここでは外の世界みたいに、こん棒をぶら下げて腕組みするあたしたちを笑うような人間はいない。
だけど、だからといって全てを認め受け入れられているワケでもない。
「呼び込みしよう」
こんなこともあろうかと、あらかじめ借りていたプラスチックのメガホンが役に立った。
あたしは大声を張り上げる。
それでもやるって決めたことに、変わりはないのだから。
「鬼退治サークルで、挑戦者を受け付けておりまーす!」
いっちーも大声を張り上げた。
「ももかいっちーの、好きは方を選んでチャンバラ対決出来ますよー!」
呼び込みにも来場者の反応は薄い。
4歳くらいの女の子がこん棒に興味を持ってくれたけど、大きすぎて持ちきれなかった。
中学校の制服を着た男の子数人は、こん棒を手にするまではしてくれたけど、打ち合いまでは至らない。
30代くらいの女の人が一人、「私も昔、本当はやってみたかったのよねー」とか言いながら、話しかけて来てくれた。
数回カツカツと打ち合わせただけで、すぐに「ありがとう」と退散してしまう。
この企画は失敗だったのかな? そんな不安や焦りがピークに達した時だった。
「これは、誰が挑戦してもいいの?」
傘立てに立てかけたこん棒の、一本が引き抜かれる。
「じゃあ、相手してくれる?」
まっすぐにそれを構えたのは、桃だった。
腰には鬼退治専用の公式刀がぶら下がる。
「桃が?」
「ダメ?」
「ダメじゃないよ」
桃の目は、今までに見たこともないほど真剣だった。
あたしは腰のこん棒に手を置く。
「じゃあ、あたしが対戦をお願いしてもいいかな。いっちーの強さは知ってるんでしょ」
「そうだね。お互い手の内やクセを知ってる」
桃はこん棒を構えたまま、ゆっくりと間合いをとる。
こんなところで挑戦を受けて、引き下がれるハズがない。
「じゃ、お願いします」
「こちらこそ」
これがオフザケだとか一時の気の迷いだとか、そんな簡単なものじゃないってことを、知らしめないと。
あたしはこん棒を抜くタイミングを見計らっている。
きっと桃も踏み込むチャンスを見ている。
互いにじっと合わせた視線から、深く集中してゆく。
辺りが急に静かになった。
あたしは腰のこん棒を抜いた。
「ちょっと待ったぁっ!」
ガツンと3本のこん棒が重なり合う。
あたしと桃の間に割り込んできたのは、細木だった。
「何だよ、邪魔すんな!」
あたしは2本のこん棒を真横になぎ払う。
桃と細木は飛び退いた。
細木に向かって振り下ろしたそれは、ガツンと受け止められる。
「くっ……」
やっぱりパワーじゃ敵わない?
そう思った瞬間、細木はあっさりとこん棒を投げ捨てた。
「キミ! その腰の刀は?」
クソダサジャージの細木は、桃に向かって両腕を広げる。
「え? これは鬼退治の……」
「やっぱりそうだよね!」
細木は桃に近寄ると、ガッツリと桃の両手を握りしめた。
「僕はここで鬼退治サークルの顧問をしていてね。もしかして君はこの学校に興味があるのかな?」
「え? えぇ、まぁ……」
「そっか!」
細木が熱い。
「もしよかったら入学案内があるから僕がそこまで案内してあげよう。いやぜひ案内させてくれないか!」
桃からの返事を待たずして、細木はくるりと背を向けた。
「よし、じゃあ行こう!」
「細木!」
あたしはこん棒を振り上げる。
「本当は鬼退治になんか、興味ないくせに!」
振り下ろしたそれを、細木はパッと避ける。
そのまま落ちていたこん棒を拾い上げた。
構わす攻撃を仕掛けるあたしを、奴はガツンと受け止める。
「当たり前だ! 小田先生に言われてやってるだけだ!」
「じゃあなんで割り込んでくるんだよ!」