「ちょっ……。待って」

 あたしがそう言ったら、桃たちもさーちゃんたちの様子に気づいた。

嫌がるむーちゃんに執拗に男が迫っている。

もう一人の男は、さーちゃんの髪に触れようと手を伸ばした。

「これ、カツラだから触んないでくれる?」

 さーちゃんは自分で頭を取った。

正体を見せた金髪坊主のさーちゃんに、男たちの動きは止まる。

「あんたたち、邪魔だからどっか行ってくんない?」

 ナンパ男たちは驚いて、さーちゃんを見下ろす。

彼らはバカみたいに笑い始めた。

「ちょ、なにその頭? それで個性とか思ってんの?」

「女の子でそれはかわいくないよ~。せっかくのおっぱいが台無し」

 さーちゃんの右手が拳を固める。

彼女の半身が一歩後ろに下がった。

「もうちょっとさ、男ウケとか考えた方が……」

 さーちゃんの目標が、ナンパ男の腹に定まった。

「この子たちの知り合い? そうじゃないなら、迷惑してると思うよ」

 その手を先につかんだのは、桃だった。

桃はさーちゃんを見下ろす。

「ね、そうじゃない?」

「……。迷惑だね」

 さーちゃんは握りしめていたその拳をほどいた。

あたしが飛びだそうとした肩を、抑えたのは金太郎だった。

浦島は桃のすぐ後ろに立つ。

「邪魔だと言われたんだ。早めに引いとけよ」

 目つきが鋭く背も高い浦島に言われて、男たちはあっという間に姿を消す。

さーちゃんは桃たちを見あげてから、あたしといっちーもいることを確認した。

もう一度視線を桃たちに戻す。

「……。ありがとう」

 さーちゃんはカツラをかぶり直した。

「さーちゃん、ありがとう! やーん、ちょっと怖かったぁ~」

 むーちゃんはさーちゃんに抱きつく。

そんなむーちゃんぎゅっと抱きしめてから、さーちゃんは改めて桃たちを見た。

「ももといっちーの知り合い?」

「お、鬼退治仲間だから。貴重な!」

 桃は何でか慌てふためいている。

浦島はカツラをかぶったさーちゃんをじっと見つめた。

「それは学祭用の衣装なのか?」

 そう言った浦島を、さーちゃんは見上げる。

「どっちもよく似合っている」

「そうかな、そうでもないんじゃない」

 彼女はため息をつく。

「ま、なんだっていいけどね。こんな格好するのも、今日だけだし」

 桃と金太郎も、順番にさーちゃんを褒める。

「どっちだって可愛いよ!」

「髪と実際の顔の作りは無関係だって証明されたね」

 きっとこれがさっきまでの教室みたいに、女の子だけの会話だったら、さーちゃんはニッと得意げに笑って、いつものように「まぁね。自分がかわいいの知ってるし」とか「今さら気づいた?」とか言ってたんだろうな。

「ももはこれから、その人たちと鬼退治?」

 目も合わせずにそう言ったさーちゃんの、そんな言葉に傷つく。

あたしはそれに答えられない。

いっちーが代わりに答えた。

「ううん。この人たちは関係ないよ」

 そのまま彼らを振り返る。

「私たちはこれから用事があるから、悪いけどこっからは自分たちで楽しんできて」

「分かった」

 桃はにこにこと笑って、素直にいっちーに手を振った。

去りゆく三つの背に、あたしは腰のこん棒をぎゅっと握りしめる。

同じように見送るいっちーの横顔も、暗く沈んでいた。

「行こっか」

 対決の時間は近い。

「そろそろ演武の時間だし」

「うん。気持ち切り替えて行こ」

 いっちーの横顔はいつだって凜々しいのに、今はそれがなんだか寂しく見える。

あたしは身を引き締めた。

自分たちで出来ることは、やっぱり自分たちでやりたいしやらなくちゃいけない。

桃たちには悪いけど、この先は来てほしくないんだ。