「細木せんせーい」
顧問の先生に許可を取ってからじゃないと、何事も出来ないことになっているので、書き上げた書類を持って行く。
細木は相変わらず、誰もいない体育科準備室の机の下に隠れていた。
「な、なんだ。お前らか」
もぞもぞと這い出してくるのを、あたしといっちーは大人しく待っている。
「学祭の出し物決めたから許可して」
紙を突き出しても直接受け取ろうとはしない。
机をトントンと指で指すから、そこに置く。
一息入れてからようやく拾い上げ、目を通した。
「なんで俺がこんなこと……」
ブツブツと文句を言いながらも、顧問の承認印を押す。
「どうでもいいけど、俺に迷惑かけるなよ。問題起こしたら速攻解散だからな」
「はーい」
ハンコさえもらえれば、コイツにもう用はない。
あたしたちはひたすら練習をして、学園祭当日を迎えた。
今年の学祭は、去年までと随分雰囲気が違っている。
共学化に伴う、数十年ぶりといかいう一般公開も話題になって、とにかく人の数が多い。
鬼退治サークルのチャンバラ対決場には、小さな立て看板を一つ置いていた。
そこに開催時間が書いてある。
それまではクラスのお手伝い。
「いらっしゃいませー」
あたしといっちーは裏方で、ひたすらヨーヨー釣りの風船を膨らましていた。
おまけでついてきたエアポンプなんて、ほとんど役に立たない。
膨らました風船を、ゴム紐でぐるぐる巻き付けてクリップで綴じたらお終い。
隣のクラスが自分たちの宣伝にやって来た。
「お疲れ~。うちにも遊びに来てねー!」
隣の三組はコスプレ喫茶だ。
派手な格好をした連中の間に交じって、見慣れない奴がいる。
「え、さーちゃん?」
「そうだよー」
いつもの金髪坊主の上に、黒髪のふんわり縦巻きカールのカツラをかぶっている。
白雪姫の衣装が、背の低い彼女によく似合う。
「かっわい~!」
「でしょ!」
一緒に来ていたむーちゃんは、得意げにさーちゃんの肩に手を置いた。
「うちの最高傑作なんだから」
真っ白な肌にツンと高い鼻は、ハーフっぽいとは思ってたけど、青いカラコンを入れたら本当に異世界から転生してきたお姫さまみたいだ。
しかも巨乳。
「まぁね」
さーちゃんもそのふんわり巻いた髪をさらりと後ろに流す。
「私って、実はこんなにかわいいって知らなかった?」
「あー、はいはいはいはい。カワイーデスヨー」
笑い声があふれる。
さーちゃんも楽しそうに笑った。
「ねぇ、貴重な姿だから、一緒に写真撮ろう」
「いいよ」
さーちゃんがそう言うと、あっという間にみんなが彼女の周りに群がった。
「ねぇ、後で一人だけのサービスショットとツーショットほしい」
「いいけど、ちゃんとうちのクラスにも遊びに来てね」
なぜ自分たちのクラスでやらないのかとか、そんなことは誰も思わない。
他クラスのお祭り屋台の会場で始まった、身内だけの撮影会だ。
一般参加の人たちはまだ体育館や野外の出し物に引きつけられていて、校舎の中には少ない。
さーちゃんは大きな顔でニッと笑ったり、一緒に写る友達と合わせてポーズをとったり、とにかくはしゃいでいた。
「ねぇ、あたしも、あたしも!」
「いいよ。もも」
さーちゃんと、こんな風に過ごせるのが楽しい。
なんだかんだでいっちーも、さーちゃんをパシャパシャ撮りまくっている。
だって、かわいいものはかわいいんだから仕方がない。
「いやー。いいもん見させてもらったわ」
「うん。アレにしては上出来だった」
普段はあんまり仲良くないくせに、いっちーまでさーちゃんと写真撮ってるのに、あたしはバレないようにこっそり笑ってる。
チャンバラ対決まではまだ時間があるから、あたしたちはヨーヨー釣りの水槽の前で接客のお手伝い。
来てくれた小さな男の子に、彼が挑戦して取れなかった風船を、代わりにすくってプレゼントしてあげる。
顧問の先生に許可を取ってからじゃないと、何事も出来ないことになっているので、書き上げた書類を持って行く。
細木は相変わらず、誰もいない体育科準備室の机の下に隠れていた。
「な、なんだ。お前らか」
もぞもぞと這い出してくるのを、あたしといっちーは大人しく待っている。
「学祭の出し物決めたから許可して」
紙を突き出しても直接受け取ろうとはしない。
机をトントンと指で指すから、そこに置く。
一息入れてからようやく拾い上げ、目を通した。
「なんで俺がこんなこと……」
ブツブツと文句を言いながらも、顧問の承認印を押す。
「どうでもいいけど、俺に迷惑かけるなよ。問題起こしたら速攻解散だからな」
「はーい」
ハンコさえもらえれば、コイツにもう用はない。
あたしたちはひたすら練習をして、学園祭当日を迎えた。
今年の学祭は、去年までと随分雰囲気が違っている。
共学化に伴う、数十年ぶりといかいう一般公開も話題になって、とにかく人の数が多い。
鬼退治サークルのチャンバラ対決場には、小さな立て看板を一つ置いていた。
そこに開催時間が書いてある。
それまではクラスのお手伝い。
「いらっしゃいませー」
あたしといっちーは裏方で、ひたすらヨーヨー釣りの風船を膨らましていた。
おまけでついてきたエアポンプなんて、ほとんど役に立たない。
膨らました風船を、ゴム紐でぐるぐる巻き付けてクリップで綴じたらお終い。
隣のクラスが自分たちの宣伝にやって来た。
「お疲れ~。うちにも遊びに来てねー!」
隣の三組はコスプレ喫茶だ。
派手な格好をした連中の間に交じって、見慣れない奴がいる。
「え、さーちゃん?」
「そうだよー」
いつもの金髪坊主の上に、黒髪のふんわり縦巻きカールのカツラをかぶっている。
白雪姫の衣装が、背の低い彼女によく似合う。
「かっわい~!」
「でしょ!」
一緒に来ていたむーちゃんは、得意げにさーちゃんの肩に手を置いた。
「うちの最高傑作なんだから」
真っ白な肌にツンと高い鼻は、ハーフっぽいとは思ってたけど、青いカラコンを入れたら本当に異世界から転生してきたお姫さまみたいだ。
しかも巨乳。
「まぁね」
さーちゃんもそのふんわり巻いた髪をさらりと後ろに流す。
「私って、実はこんなにかわいいって知らなかった?」
「あー、はいはいはいはい。カワイーデスヨー」
笑い声があふれる。
さーちゃんも楽しそうに笑った。
「ねぇ、貴重な姿だから、一緒に写真撮ろう」
「いいよ」
さーちゃんがそう言うと、あっという間にみんなが彼女の周りに群がった。
「ねぇ、後で一人だけのサービスショットとツーショットほしい」
「いいけど、ちゃんとうちのクラスにも遊びに来てね」
なぜ自分たちのクラスでやらないのかとか、そんなことは誰も思わない。
他クラスのお祭り屋台の会場で始まった、身内だけの撮影会だ。
一般参加の人たちはまだ体育館や野外の出し物に引きつけられていて、校舎の中には少ない。
さーちゃんは大きな顔でニッと笑ったり、一緒に写る友達と合わせてポーズをとったり、とにかくはしゃいでいた。
「ねぇ、あたしも、あたしも!」
「いいよ。もも」
さーちゃんと、こんな風に過ごせるのが楽しい。
なんだかんだでいっちーも、さーちゃんをパシャパシャ撮りまくっている。
だって、かわいいものはかわいいんだから仕方がない。
「いやー。いいもん見させてもらったわ」
「うん。アレにしては上出来だった」
普段はあんまり仲良くないくせに、いっちーまでさーちゃんと写真撮ってるのに、あたしはバレないようにこっそり笑ってる。
チャンバラ対決まではまだ時間があるから、あたしたちはヨーヨー釣りの水槽の前で接客のお手伝い。
来てくれた小さな男の子に、彼が挑戦して取れなかった風船を、代わりにすくってプレゼントしてあげる。