「雉沼さんたちもまだ帰ってきてないし」
「は? なんか言った?」
ヒットが出た!
ランナーは走り出す。
三遊間へ飛んだボールは、すぐに捕らえられ一塁に投げられる。
駆け抜ける走者の足は、一瞬先に塁を踏んでいた。
大歓声が上がる。
「よっしゃぁ!」」
「このまま行くよ!」
盛り上がるクラスの横で、細木はまだふてくされている。
「花田、保健室見に行ってこいよ」
「いま授業中ですけど」
「やっぱサボってんじゃねーかアイツら」
「気になるなら先生が見に行けばいいでしょ」
「やだよ。なんで俺が行かなくちゃいけないんだ。花田が行って来いよ。絶対おかしいだろ」
次の打者がバッターボックス立つ。
緊張のにらみ合い。
バットを構えた。
放たれた剛速球に「ストライク!」の声が響く。
「は? 保健室で吐き散らかした子でもいたんじゃないの?」
「片付けの手伝いをしてるって?」
バッターは次の打球を見送った。
判定はファウル。
ピッチャーとバッターの視線はフィールドでバチバチに絡み合う。
「もう出番ないんだろ? 見に行って来いよ」
振りかぶったピッチャーから放たれる白球。
バットは動いた。
だけどそれはイヤな音をあげる。
「あぁっ!」
高く上がった打球は、相手にとって格好の獲物だ。
難なくフライに打ち取られる。これで1アウト。
「ドンマイ!」
「次だ、次!」
細木はまだブツクサ何かを言っている。
あたしは本当にそれどころじゃないってのに!
「あのさぁ、吐き散らかしたゲロの始末のあとに、生理の血で汚れたベッドのシーツ洗うのも手伝ってるかもしんないでしょ?」
そう言ったら、ようやく細木は黙った。
「そんなに気になるんなら、本当に自分で見に行きなよ」
「……。もういい」
立ち上がり、少し離れた場所に座った。
まだ顔が怒っているけど、そんなの知るもんか。
次のバッターは三振に終わる。
最後のバッターが打席に立った。
緊張のにらみ合いからの、あっという間に2ストライク。
次が最後の一球となってしまった。
あたしたちは全員で両手を組み天に祈る。
みんなの応援が最高潮に高まった。
「ストライク! バッター、アウト!」
結局、1点ももぎ取れることはなく、終わってしまった。
「ゴメンなさぁ~い!」
あたしたちはみんなで、半泣きのバッターをねぎらう。
「いいよ、いいよ!」
「次は頑張ろう」
慌ただしくチームの交代が行われているなか、細木は0の並んだスコアボードの前に立っていた。
ふいにチョークを手に取ると、2回の裏に「1」の文字を書き足し、最終得点にも「1」を付け加える。
「あの、交代なんで、消しちゃっていいですか?」
「あ、はい」
速攻で消されてるの、マジでウケる。
校外のどっかへ行っていたらしい小田っちが、スーツ姿で現れた。
「あぁ、細木先生。すいませんね。無事にやれてますかね」
「あ、はい。大丈夫です!」
細木はパッと立ち上がって、にっこにこの満点笑顔でペコリと頭を下げる。
「花田、大丈夫か?」
「せんせーい。大丈夫だよー」
そう言って手を振ると、小田っちも満足そうに笑顔で手を振り返してくれた。
次の試合が始まる。
機嫌を直したらしい細木は、そこからずっとにこにこしながら大人しく試合を見守っていた。
「平和だなぁ~」
あたしはそうつぶやくと、青い空の下主審についた。
「は? なんか言った?」
ヒットが出た!
ランナーは走り出す。
三遊間へ飛んだボールは、すぐに捕らえられ一塁に投げられる。
駆け抜ける走者の足は、一瞬先に塁を踏んでいた。
大歓声が上がる。
「よっしゃぁ!」」
「このまま行くよ!」
盛り上がるクラスの横で、細木はまだふてくされている。
「花田、保健室見に行ってこいよ」
「いま授業中ですけど」
「やっぱサボってんじゃねーかアイツら」
「気になるなら先生が見に行けばいいでしょ」
「やだよ。なんで俺が行かなくちゃいけないんだ。花田が行って来いよ。絶対おかしいだろ」
次の打者がバッターボックス立つ。
緊張のにらみ合い。
バットを構えた。
放たれた剛速球に「ストライク!」の声が響く。
「は? 保健室で吐き散らかした子でもいたんじゃないの?」
「片付けの手伝いをしてるって?」
バッターは次の打球を見送った。
判定はファウル。
ピッチャーとバッターの視線はフィールドでバチバチに絡み合う。
「もう出番ないんだろ? 見に行って来いよ」
振りかぶったピッチャーから放たれる白球。
バットは動いた。
だけどそれはイヤな音をあげる。
「あぁっ!」
高く上がった打球は、相手にとって格好の獲物だ。
難なくフライに打ち取られる。これで1アウト。
「ドンマイ!」
「次だ、次!」
細木はまだブツクサ何かを言っている。
あたしは本当にそれどころじゃないってのに!
「あのさぁ、吐き散らかしたゲロの始末のあとに、生理の血で汚れたベッドのシーツ洗うのも手伝ってるかもしんないでしょ?」
そう言ったら、ようやく細木は黙った。
「そんなに気になるんなら、本当に自分で見に行きなよ」
「……。もういい」
立ち上がり、少し離れた場所に座った。
まだ顔が怒っているけど、そんなの知るもんか。
次のバッターは三振に終わる。
最後のバッターが打席に立った。
緊張のにらみ合いからの、あっという間に2ストライク。
次が最後の一球となってしまった。
あたしたちは全員で両手を組み天に祈る。
みんなの応援が最高潮に高まった。
「ストライク! バッター、アウト!」
結局、1点ももぎ取れることはなく、終わってしまった。
「ゴメンなさぁ~い!」
あたしたちはみんなで、半泣きのバッターをねぎらう。
「いいよ、いいよ!」
「次は頑張ろう」
慌ただしくチームの交代が行われているなか、細木は0の並んだスコアボードの前に立っていた。
ふいにチョークを手に取ると、2回の裏に「1」の文字を書き足し、最終得点にも「1」を付け加える。
「あの、交代なんで、消しちゃっていいですか?」
「あ、はい」
速攻で消されてるの、マジでウケる。
校外のどっかへ行っていたらしい小田っちが、スーツ姿で現れた。
「あぁ、細木先生。すいませんね。無事にやれてますかね」
「あ、はい。大丈夫です!」
細木はパッと立ち上がって、にっこにこの満点笑顔でペコリと頭を下げる。
「花田、大丈夫か?」
「せんせーい。大丈夫だよー」
そう言って手を振ると、小田っちも満足そうに笑顔で手を振り返してくれた。
次の試合が始まる。
機嫌を直したらしい細木は、そこからずっとにこにこしながら大人しく試合を見守っていた。
「平和だなぁ~」
あたしはそうつぶやくと、青い空の下主審についた。