「よっしゃ、勝つぞ!」

 背が一番高いという理由で、うちの先発ピッチャーはいっちーになった。

あたしはファーストにつく。

三組の1番バッターが打席に入った。

「ストライク!」

 ファウルボールをいつくか打ってからの5球目。

突然キャッチャー役の子が立ち上がった。

「痛ぁ~い! 手の皮がむけちゃった」

 普段使うことのないミットを使用したせいで、親指の付け根が赤くめくれている。

「交代する?」

 キャッチャー交代を告げると、細木が駆け寄ってきた。

「何ですか。こんな簡単に選手の交代はしません!」

「だけどさぁ!」

 彼女の手を見せると、細木はグッと押し黙る。

「保健室、つれて行っていい?」

 ベンチ入りしている子が細木に言った。

「これくらい一人で行けるでしょう。自分で行ってきなさい」

「えぇ~!」

「サボる気ですか?」

 細木は二人を見下ろす。

なんだコイツ? 

やっぱムカつくな。

「そんなこと言ってないし」

「先生はここを離れるわけにはいかないので、一人で行きなさい」

「じゃあ先生が絆創膏貼ってよ」

 突き出される女子高生の手に、細木は後ずさった。

「……だから、一人で行ってきなさいって……」

「先生」

 ふっと現れたのは、三組のキジだ。

「私、保健委員なので、私がつれて行って手当をしてきます。それならいいでしょう? 今はスコア係の一人だし」

 キジは優等生な笑顔を見せた。

いつもの手でサボる気満々なのを知らないのは細木だけ。

「分かりました。では雉沼さんにお願いします」

 そこにいた生徒たちは全員、相変わらず上手いなーとか思ってる。

キジはこれでもう1時間は帰ってこない。

「5分で戻ってきてください」

 細木の言葉に、キジは立ち止まった。

「雉沼さんはいつも……、その、体育の時に姿が見えなくなる傾向があるので……」

「先生。ここから歩いて保健室まで行き、保健の先生に事情を説明して手当をするだけでも15分はかかると思います。それにもし、他の重傷者や発熱等の生徒がいれば、そっちを優先させるのは当たり前なんじゃないんですか?」

 キジは細木の返答を待たずに歩き出した。

負傷した子の背に手を添え寄り添う。

「5分じゃ戻れないと思うけど、行ってきます」

「じゃ、試合再開ねー」

 永遠に不機嫌な細木の相手なんかしてらんない。

あたしはフィールドで待っていた仲間に手を振った。

真っ先にスコア係を選んでいた子が、仕方ないねと入れ替わったポジションに入る。

 試合が再開されたのはいいものの、そっからの方が問題だった。

相手チームには野球部員が5人在籍していた。

こっちは0。

いっちーの入った1回は0点で交代したものの、その裏のあたしたちの攻撃は0点に終わり、ピッチャー交代。

うちのクラスのピッチャー希望者は、どこのポジションでもよかったいっちーを含め5人が一人1回で交代する予定で、投げる順番を決めていた。

そのいっちーから交代した2回の中継ぎ登板で、総崩れを起こしてしまった。

怒濤のヒット連発に走者一巡16点の大量得点を許す。

それでもまだ2アウト。