「一花はこのあとどうするの?」

 正門前まで戻ってきた。

桃はいっちーに尋ねる。

「どうって……。一度学校に戻って……片付けとかあるから……」

「そっか」

 桃の指先はいっちーのブレザーの裾に触れると、それをそっと引いた。

「こん棒、よく似合ってる……から、よかった」

「先に帰っていいから」

「う、うん」

 開かれた境界線を乗り越える。

桃の指先はいっちーの制服から離された。

ここからはあたしたちの世界で、彼らは立ち入ることは出来ない。

手を振る彼らに別れを告げると、いっちーはうつむいたまま校内を進んだ。

その足取りは速い。

「ねぇ、いっちーさぁ……」

 あたしはそんな彼女の背中を見ながらこん棒を肩に担ぐ。

「いっちーがあたしに付き合ってくれるのはうれしいんだけど、無理はしなくていいよ」

 何でこのタイミングって言われれば、分からない。

だけど、一度は確認しておきたいことだったのかもしれない。

「いっちー、元々あんま乗り気でもなかったし。環境とか立場ってのもあるし……。気持ちは……、分かるから」

 いっちーは背を向けたまま歩き続ける。

だって別に、一緒に鬼退治するのはあたしじゃなくてもいいわけだし。

もっと強くていい人がいるのならば、あたしだってそっちの人と行動したい。

変な同情してるとか、つまんないとか、思われてるんじゃないかって、そんなことは思ってないけど……。

「あんたは別に……いや、変な意味じゃなくてだよ。ちゃんとした人がいるんだから、無理にこんなことしなくっても……。いっちーにはいっちーのやり方があっていいわけだし。それはそれで全然……。応援とか、誰かの助けをするってのも、それはそれで……」

 振り返った彼女の手は、あたしの胸ぐらを掴んだ。

「大人しく黙ってていいのかって、言ったのあんただし!」

 いっちーの表情に、あたしの傷がうずき始める。

「やっぱり私にはなにも出来ないって? やってもらった方がラク? 確かにそうだよね、奥に引っ込んで笑ってりゃいいんだし」

 あたしをドンと突き放した。

「ももって名前の奴って、やっぱマジでムカつく。あんたまでそんなこと言うんだったら、私はもうやめる」

 いっちーはこん棒を投げ捨てると、着けていたベルトまで地面に叩きつけた。

「ああいうのはイヤだって、ずっと思ってるのに! にこにこ笑って誰かの手伝いか手助けばかりで。誰も私自身の気持ちになんて興味なくて、ただ便利で邪魔にならないのがやっぱり一番だって?」

 振り返った彼女の目に涙が浮かぶ。

「それを分かってくれてるのは、ももだと思ってた。なのにやっぱりそんなふうに言うんだったら、無理」

「いっちー、ごめん!」

「私はそんな自分が嫌いで変えたいと思った」

「だからゴメンって!」

 伸ばした手は、すぐに振り払われた。

「来ないで。今日は一人で帰る」

 遠くなるいっちーの背を見送りながら、気がつけばあたしは声を上げて泣いていた。

わんわん大声で泣きながらいっちーの捨てたものを拾い、演武場に借りた倉庫まで独りで片付けに行く。

あんまり派手に泣き続けていたから、ジロジロ見られてたのは知ってるけど、今はそれどころじゃない。

いくら泣いても泣いても泣ききれなくて、どうしようもなく止まらなくなった声を張り上げて泣いている。