「ほ、ホントですか……絶対に約束ですよ……。男子の方の受け持ちは……えぇ、ま……!」

 突然切れたらしい電話に、細木はおもいっきり顔をしかめ受話器をにらんだ。

が、すぐに我に返って、あたしたちを振り返る。

細木は視線を横にずらすと、決まり悪そうにそっと受話器を戻した。

静寂が訪れる。

体育科準備室にはあたしたち三人しかいなくて、学校の高い城壁で守られた放課後の校庭はどこまでも穏やかで、差し込む夕日とのんきな女子高生たちの声が響いている。

ふいに、細木がサークルの書類を握りしめた。

「ちょ、何すんのよ!」

 全力で走り出す。

「待て!」

 準備室を飛び出した細木を、あたしといっちーは追いかけた。

「うるせー! 俺はこんなことをしたくてやってるわけじゃないんだ!」

 廊下を全力ダッシュする細木は、普段のビクつきた様子からは想像できないほど足が速い。

「くそっ! ムダに体育教師してやがる!」

 階段を駆け上がった。

向かっているのは職員室? 

細木はガンとそこへ飛び込むと、堀川の前にそれを叩きつけた。

「え、なに?」

「……小田先生からの伝言です。コレを必ず今日中に通すようにって……」

 細木は机に転がるペンを手に取った。

その場で自らの名前を顧問欄に書き殴る。

「はい。これで問題ないでしょう。よろしくお願いしますよ、堀川先生」

 細木の顔が怖い。

「絶対に、よろしくお願いします」

 堀川はくしゃくしゃになった紙を広げる。

その一枚一枚に恐る恐る目を通した。

その様子を細木は能面のような表情で見下ろしていた。

「た、確かに受理いたしました」

「ここにもサインを」

 細木は書類の一部を指さした。

「先生も同罪ですよ。この件には一緒に関わってもらいます」

 堀川は書類に視線を落とす。

細木の迫力に押されて、ペンを手に取った。

震える手で自らのサインを顧問欄に加える。

それを見届けた細木はボソリとつぶやいた。

「よかった。これで何とかなる」

 振り返った細木と目が合う。

ギロリと見下ろしたあたしたちの横をそのまま通り過ぎ、職員室から出て行く。

ふらふらとよろけながら立ち上がった堀川は、書類を校長決裁の箱に入れた。

「あなたたちの勝ちよ。おめでとう」

 それはそのまま、サークル創立が承認されたことを意味する。

「あ、ありがとうございました」

 職員室を出る。

あたしといっちーの背後で、ガラガラと扉の閉まる音が聞こえた。

「ねぇ、いっちー……」

「うん。もも……」

 あたしの手といっちーの手が重なった。

「やったー!」

「出来たー!」

 その場でぴょんぴょん飛び跳ねてぐるぐる回る。

あんまりはしゃぎすぎたから、通りかかった他の先生に注意された。

だけどそんなことも全く気にならない。

部室はないから自分たちの教室に駆け込む。

窓から外に向かって思い切り叫んだ。

「やったよー!」

「出来たねー!」

 あたしたちの鬼退治サークルは、ここに成立した。