「明日までに考えてきます」
職員室を飛び出す。
「もも、どうするの!」
廊下を走り出したあたしのうしろを、いっちーは追いかけてくる。
「いっそ堀川に土下座して、顧問頼もうかとも思ったけど、やめた」
いっちーの顔色が曇る。
小田先生が顧問になってくれるのはかまわない。
だけど書類の提出が間に合わないっていうのなら、他の先生に今から頼めばいいと思った。
それで顧問欄に署名してもらえれば、そのまま出せばいいんだ。
「だけどやっぱり……」
「だけどなに?」
全速力で教室の角を曲がり、外へ飛び出す。
「ベルトくれた小田っちがいい!」
「そりゃそうでしょ! それが出来ないから……」
「だったら泣きつく!」
「どうやって!」
体育科準備室の扉を勢いよく開けた。
やっぱり机の下に隠れていた細木を引きずり出す。
「先生! 小田先生の携帯番号教えてください!」
いくら出張中の研修中だからって、休み時間くらいはあるだろう。
携帯に学校からの履歴が残っていれば、折り返しの連絡くらいあるだろう。
先生のいる場所は学校から電車で30分圏内だ。
帰りにちょっと寄ってもらうくらいなら、頼めるかもしれない。
「生徒に先生のケー番教えるとか、そんなのダメに決まってんだろ! ありえねぇ!」
「じゃあ細木先生から連絡してください!」
「ヤだよ」
「なんで」
「なんでって……」
そのタイミングで、都合よく細木の腰辺りから着信音が鳴り始める。
「先生。先生の携帯、鳴ってますよ」
「いま勤務中だし」
「学校や生徒からの重要な連絡だったらどうするんですか?」
あたしといっちー、細木以外にここには誰もいない。
ふっと呼び出し音は鳴り止んだ。
「履歴、確認しないんですか?」
「お前らの前ではしない」
コノ野郎!
って思う間もなく、準備室の固定電話が鳴り始める。
「……先生。電話鳴ってるよ」
「それがどうした」
「他の体育の先生、細木先生がココにいるの、知ってますよ」
返事はない。
あたしはさらに細木に迫る。
「電話、出ないと不味いんじゃないんですか? 留守番の仕事、サボってると思われますよ」
それでも細木に動く気配はない。
三人しかいない空間に、呼び出し音は響き続ける。
「あー、先生、いまここにいないっていう設定なんだ。知らないよー。後で何か言われても……」
電話が切れるかと思った瞬間、細木はパッと受話器を取り上げた。
「はい! 瑶林高校体育科準備室です!」
すかさず耳を寄せる。
「うわぁ!」
びっくりした細木は、受話器を落っことした。
「おう! 細木先生か、ちょっと頼み事があるんですけどね……」
「小田先生!」
すぐさまそれを奪いとる。
細木は男性体育教師、女子高生には怖くて触れない。
いっちーは両手を大きく広げ、あたしと細木の間に立ち塞がった。
「おい、返せ!」
「先生! あの、お願いが……」
「おー花田か、ちょうどいいところに出てきたな。鬼退治の書類は出来たか?」
「出来ました!」
「よし。そのことよ。細木先生近くにいる?」
「います」
いっちーの向こうでソイツはぶるぶる震えている。
あたしは受話器を突き出した。
「小田っちが代われって」
細木は速攻であたしたちに背を向け、隠れるように丸く縮こまる。
こっちには絶対に会話を聞かれないようにするつもりだったらしいけど、それは一瞬で自分からなかったことにしていた。
「は? 嫌ですよそんなの!」
初めて聞くような大声だったのに、それはすぐに声をひそめた。
小田っちと細木が揉めている。
何かぼそぼそと文句言っているのは分かるけど、その内容までは聞き取れない。
職員室を飛び出す。
「もも、どうするの!」
廊下を走り出したあたしのうしろを、いっちーは追いかけてくる。
「いっそ堀川に土下座して、顧問頼もうかとも思ったけど、やめた」
いっちーの顔色が曇る。
小田先生が顧問になってくれるのはかまわない。
だけど書類の提出が間に合わないっていうのなら、他の先生に今から頼めばいいと思った。
それで顧問欄に署名してもらえれば、そのまま出せばいいんだ。
「だけどやっぱり……」
「だけどなに?」
全速力で教室の角を曲がり、外へ飛び出す。
「ベルトくれた小田っちがいい!」
「そりゃそうでしょ! それが出来ないから……」
「だったら泣きつく!」
「どうやって!」
体育科準備室の扉を勢いよく開けた。
やっぱり机の下に隠れていた細木を引きずり出す。
「先生! 小田先生の携帯番号教えてください!」
いくら出張中の研修中だからって、休み時間くらいはあるだろう。
携帯に学校からの履歴が残っていれば、折り返しの連絡くらいあるだろう。
先生のいる場所は学校から電車で30分圏内だ。
帰りにちょっと寄ってもらうくらいなら、頼めるかもしれない。
「生徒に先生のケー番教えるとか、そんなのダメに決まってんだろ! ありえねぇ!」
「じゃあ細木先生から連絡してください!」
「ヤだよ」
「なんで」
「なんでって……」
そのタイミングで、都合よく細木の腰辺りから着信音が鳴り始める。
「先生。先生の携帯、鳴ってますよ」
「いま勤務中だし」
「学校や生徒からの重要な連絡だったらどうするんですか?」
あたしといっちー、細木以外にここには誰もいない。
ふっと呼び出し音は鳴り止んだ。
「履歴、確認しないんですか?」
「お前らの前ではしない」
コノ野郎!
って思う間もなく、準備室の固定電話が鳴り始める。
「……先生。電話鳴ってるよ」
「それがどうした」
「他の体育の先生、細木先生がココにいるの、知ってますよ」
返事はない。
あたしはさらに細木に迫る。
「電話、出ないと不味いんじゃないんですか? 留守番の仕事、サボってると思われますよ」
それでも細木に動く気配はない。
三人しかいない空間に、呼び出し音は響き続ける。
「あー、先生、いまここにいないっていう設定なんだ。知らないよー。後で何か言われても……」
電話が切れるかと思った瞬間、細木はパッと受話器を取り上げた。
「はい! 瑶林高校体育科準備室です!」
すかさず耳を寄せる。
「うわぁ!」
びっくりした細木は、受話器を落っことした。
「おう! 細木先生か、ちょっと頼み事があるんですけどね……」
「小田先生!」
すぐさまそれを奪いとる。
細木は男性体育教師、女子高生には怖くて触れない。
いっちーは両手を大きく広げ、あたしと細木の間に立ち塞がった。
「おい、返せ!」
「先生! あの、お願いが……」
「おー花田か、ちょうどいいところに出てきたな。鬼退治の書類は出来たか?」
「出来ました!」
「よし。そのことよ。細木先生近くにいる?」
「います」
いっちーの向こうでソイツはぶるぶる震えている。
あたしは受話器を突き出した。
「小田っちが代われって」
細木は速攻であたしたちに背を向け、隠れるように丸く縮こまる。
こっちには絶対に会話を聞かれないようにするつもりだったらしいけど、それは一瞬で自分からなかったことにしていた。
「は? 嫌ですよそんなの!」
初めて聞くような大声だったのに、それはすぐに声をひそめた。
小田っちと細木が揉めている。
何かぼそぼそと文句言っているのは分かるけど、その内容までは聞き取れない。