生徒会書記のはーちゃんとしーちゃんに見てもらいながら、最後の書類を整える。

設立許可証と人員名簿、施設使用許可書とそれに関する合意書に、学校のルールは守るという同意書などなど……。

「あぁ! 面倒くせぇ!」

「もも、ここが最後の難関よ」

 はーとしーがいてくれなかったら、本当に何にもなってなかったと思う。

あたしが二人の指示通りにあれこれ書き物をしている間に、いっちーは必要なハンコをあちこち走り回ってもらってきてくれた。

「ねぇ、まだ終わんないの?」

「ももの書き間違いが多すぎるから。やり直しの手間さえなければ、もうちょっと……ね」

 はーちゃんの言葉にぐうの音も出ない。

「デジタル対応……」

「早く出来るといいよねー」

 しーちゃんは出来上がった書類をチェックしている。

「うん。これでいいんじゃない。しめきりギリギリで、よく間に合ったわね」

 いっちーと同時に、ようやく安堵のため息をつく。

「ありがとう二人とも。助かった」

 生徒会室から職員室へ向かう。

書類の窓口になっているのは、あの堀川だ。

「先生、書類揃いました」

 散らかった机を前に、眼鏡の奥からあたしたちを見上げる。

堀川は無表情のままそれを受け取った。

「そ。じゃ、見せてもらうわね」

 全く興味ない仕草丸出しで順番にそれをめくる。

そのままバサリと机に投げ出した。

「で?」

「で? なんすか」

 堀川の言葉に、あたしたちは首をかしげる。

「書類は揃ってるようね。だけど、これは顧問の小田先生から提出してもらわないと」

「そうなんですか?」

「普通そうでしょ」

 大量に積まれた何かのプリントの山の上に、あたしたちの書類は再び放り投げられる。

「だって、あんたたちは小田先生に主任顧問をお願いしたんだから」

 堀川はペン先でボリボリと頭を掻くと、こっちには全くの無関心な状態のまま、自分の仕事を始めてしまった。

落ち着きのない職員室のざわめきの中で、あたしたちはぽつんと取り残されている。

仕方なく投げ捨てられたそれを手に取った。

「じゃ、小田先生にお願いしてきます」

 職員室を出る。

その瞬間、いっちーは舌を鳴らした。

「ちっ、なにあの態度」

「まぁまぁ。だから小田っちに頼んだんだし」

 放課後の体育科準備室は、部活指導に抜けた先生たちばかりで閑散としていた。

どこを見渡しても誰一人見当たらない。

「すみませーん」

 空っぽの部屋に何を言っても返事はない。

当たり前か。

「えー、どうするいっちー」

「どうするも何も……」

 小田っちの机はどこだっけ。

誰もいない準備室におずおずと入っていくと、ひょいと机の下から青白い顔が飛び出した。

「うわっ!」

 細木だ。

「お、お前ら……。こん、こんあなところで、何やってんだ……」

 この細木というのは、男性の新米体育教師だ。

共学化に合わせて採用されたとか何とかいう噂はあるけど、とにかく女子高生が怖くて仕方がない。

「小田先生は?」

「い、いませんけど!」

 そんな青ざめた顔でブルブル震えながらにらみつけられても、こっちだって困る。

ここへ来てもう二、三年にはなると思うのに、未だにうちらには慣れないようだ。

「いや、いないと困るんだけど……」

 細木は正面のホワイトボードを指さした。

綴じ紐でぶら下げられたメモ用紙の束が見える。

「メモ。して残せば。しらんけど」

「……」

 あたしたちは、まだ遠く机の向こうにしゃがみ込んだままの細木を見下ろす。

じっと観察していたら、その姿は再びゆっくりと机の下に消えていった。

「なにあれ」

「さぁ」

 不思議な生き物もいたもんだ。

だけどまぁこんなところに、いつまでもいるわけにもいかない。