「うまくいくと思うの?」

「そんなの、やってみないと分かんない!」

 水平に掲げたこん棒の先に、二人の姿が並ぶ。

あたしはこんなところで諦めるわけにはいかない! 

踏み込む勢いで斬りかかる。

キジは体が柔らかく横移動が多い。

さーちゃんは高い筋力で上からのジャンプ攻撃とポンポンを繰り出す。

攻撃パターンが読めてきた。

あたしがキジを避けている間に、さーちゃんは飛び上がる。

それに気をとられればポンポンは襲い、態勢を立て直したキジがその隙に攻撃を仕掛ける。

あたしはボッコボコにされながらも、じっと反撃のチャンスを狙っていた。

いくら連携のとれた二人にだって、スキや油断は生じる。

二人の立ち位置が、微妙にずれた。

「そこだ!」

 渾身の一撃を繰り出す。

さーちゃんの上に振り下ろしたそれを、割り込んだキジの扇子が受け止めた。

一瞬の静寂。

肩での荒い呼吸が演武場に響いている。

もう動く力の残っていないあたしは、その場に崩れ落ちた。

そんなあたしを、さーちゃんとキジは見下ろす。

「ふん。しょうがないわね、譲ってあげるわよ」

「そうだね。やる気は見せてもらったし」

 二人はくるりと顔を合わせた。

「てゆーか、私たちやっぱり息ぴったりじゃない?」

「ホントそう思う! 私の相方は、やっぱりさーちゃんじゃないと無理みたい」

「私も!」

 両方の手の平を合わせ、互いの指を絡める。

「ね、キジ。やっぱりバレエ部とチア部、合体させない?」

「そうだよね。その方がより高みを目指していけると思う」

「やっぱり? キジならそう言ってくれると思った」

「当たり前じゃない。私たちの表現に対する情熱は、どこまでも自由なのよ!」

 演武場の扉が開く。

「さすがね、あなたたち!」

「それでこそよ!」

「バンテ先輩!」

「チアちゃん先輩!」

 そう呼ばれた二人は、さーちゃんとキジ、互いの手を取った。

「演武場が大変なことになってるっていうから、駆けつけてみれば……」

「あなたたち二人なら、きっと大丈夫だって信じてたわ」

「先輩!」

「もう仲直りしたんですか?」

「えぇ。手の届かない尊い推しも大切だけど、目の前にいるリアルな関係はもっと大切でしょ」

「いつまでもそんなことでいがみ合う私たちじゃないし」

 歓喜と賞賛の声が辺りを包む。

あたしは起き上がろうとして、痛みに崩れ落ちた。

演武場はすっかり幸せに包まれている。

「もも。お疲れさま」

 目の前に差し出された、いっちーの手をつかんだ。

彼女はこん棒とあたしを抱き上げる。

「行こう」

「うん」

 よかった。

さーちゃんとキジが仲直り出来て。

いっちーも笑ってくれたし。

あたしはその微笑みに安心する。

肩をかしてもらい、いっちーに引きずられるようにしながら立ち去る。

「もも!」

 さーちゃんの声だ。

「演武場、チア部の時間をあんたたちに譲る」

 あたしたちは振り返った。

「ありがとう。もものおかげで助かった」

「そうね。これからよろしくね」

 その横でキジも微笑む。

「うん!」

 入って来た時には、果てしなく気で重かった扉を、晴れやかな気持ちで後にする。

保健室に運び込まれたあたしに、いっちーは手当をしてくれた。

慣れた手つきで軟膏を塗り、絆創膏を貼ってくれる。

「もう。無茶ばっかりして。今度から私も戦うからね」

「うん。次は一緒に頼むわ」

 夕焼けの日差しに、ミルクティー色の茶色の髪が透けている。

しばらくして、演武場使用に関する合意書が生徒会に届けられた。