バレエ部とチア部のいざこざについて聞いてみる。

「……。別に、たいした理由じゃないんだけどね……」

 金髪坊主のさーちゃんは、駅前花壇の縁石に腰を掛けた。

あたしといっちーもその隣に座る。

「昔は仲良くてさ。そもそもチアもバレエ部もたいした活動なんてしてないじゃない? 互いに行ったり来たりしながら、何となく仲良くやってたんだよね。練習も今みたいに別々にしてなくて、バレエ部とチア部とには分かれてるけど、ずっと一緒に使ってて……」

 昨年現役を引退した今の3年生部員は、特にバレエ部とチア部で仲がよかった。

両者の混成チームでチア部最後の大会に出場し、有終の美を飾るはずだった。

その試合中、最後の見所となる総決算のタワーが崩れ落ち、助っ人参加していたバレエ部のエースは足を捻挫してしまう。

そのためにバレエ部は目指していた最後の大会に出られず、それぞれの活動は終了してしまった。

「大変なことじゃん!」

 いっちーが口を開いた。

「そりゃ根に持つって」

「問題はそこからよ」

 さーちゃんは続ける。

「何だかんだ言ってもね、うちの学校って基本的に、部活も何もかも生徒任せじゃない? 強いところは強いけど、バレエ部とチア部ってねぇ……ほら、それなりだから」

 存続すら危ういバレエ部と、部員数減少の一途をたどるチア部。

「その一件で決裂したの?」

「逆よ、逆」

 怪我を負わせてしまったチア部部長は部の解散を決めた。

部員たちも納得し、チア部はそのまま解散、バレエ部に全てを明け渡す予定だった。

「ち。そうしてくれればよかったのに」

 あたしは舌打ちをする。

いっちーは両目に思いっきり感動の涙を浮かべ、さーちゃんの話に聞き入っていた。

「そんなことは許されないって、去年のバレエ部部長がチア部部長を説得して、それで円満解決よ。最後の打ち上げは合同でやってすっごい盛り上がって、今後も仲良くやっていきましょうって……」

 暗く沈み込むさーちゃんの横顔に、あたしはため息をつく。

「で、結局なにが問題なの?」

「その打ち上げはね、カラオケボックスの大部屋借りてやったのよ。そしたら人気アイドルの推し被りが発覚して……」

「は?」

 前年度バレエ部部長の万上さんことバンジョウ先輩と、チア部前部長の千愛ちゃんことチア先輩が、絶対同担拒否の推し被りだったことが発覚した。

「もう最悪よ。感動のお別れ会のはずが、2人のカラオケバトルから殴り合いの喧嘩にまで発展しちゃって……」

 さーちゃんは大きくため息をついた。

「私ももう、どうしていいか分かんない。2人とも大好きだしそれぞれの部員はみんなそれぞれの部長側についてるし……。『愛』ってホント罪だよね……」

「なるほど。状況はよぉーく理解した」

 あたしはスカートの裾を振り払い立ち上がる。

ギリギリと奥歯をかみしめた。

「任しとけ。そんなのあたしがガッツリあっさり綺麗さっぱり解決してやんよ!」

「そう簡単にはいかない」

 さーちゃんも立ち上がる。

「うちらの問題はうちらで片をつける。そういうもんでしょ」

「今ですらどうにもなってないのに、どうすんのよ」

「それでも、どうにか……する……」

 珍しく、おどおどと彼女の視線は下に下がった。

さーちゃんはとぼとぼと歩き出す。

その背中はただ見送るしか出来なくって、あたしは隣にいるいっちーに向かって言った。

「コレを何とかしてみるか」

「そうだね。チアの部長がさーちゃんなら、バレエ部の部長も当たってみよう」