日を改めて、もう一度校内を見て回る。

鬼退治サークルの活動場所としてふさわしいのは、どう考えても演武場以外ありえない。

「やっぱここか」

「だよね」

 体育館横に立つ円形に近い建物。

正面には昔書道の先生が書いたという看板が掲げられる。

「どうする?」

「聞かれても」

 あたしの隣には、いっちーが立ってくれている。

方法はこれしか思いつかない。

チア部とバレエ部が仲悪いとか、考えてみればうちらとは何の関係もないし。

体育館半分くらいの広さの、さほど大きくはない演武場だ。

「行くか」

「だね」

 あたしは演武場正面の扉を突き破った。

「たのもう!」

 入り込んだそこには、バレエ部とチア部の部員ほぼ全員が集合していた。

両者対面しギリギリとにらみ合う。

「うっ……」

 その緊迫した雰囲気に、あたしといっちーは固まった。

「あんたたちが最初にこんなことしたんでしょう!」

「どうして自分たちのせいにできるの?」

「話し合って決めたことくらい、ちゃんと守ってほしいんだけど!」

 今にも暴動に発展しそうな勢いだ。

「あ、あの……。スミマセン……」

「何の用?」

 チアの2年生だ。

「もも。もしかしてあんた、またここを借りたいって言ってくるんじゃないでしょうね」

 バレエ部の方からも声がかかる。

「悪いんだけど、今そんなことに構ってられる余裕ないから」

「あ……えっと……」

 その最悪過ぎる雰囲気に、あたしといっちーは完全に怖じ気づいた。

「し、失礼しましたぁ!」

 即座に退散。扉が閉まったとたん、その向こうから罵詈雑言の応酬が響き渡る。

これは予想以上に酷い。

困った。

「話合いどころじゃないじゃん」

 扉を見ながら、いっちーもため息をつく。

「誰かチアかバレエ部に知り合いいない? どうなっているのか、もっと正確な状況を把握しないと……」

 校庭からこちらに走ってくる金髪坊主頭が見えた。

階段にさしかかったところで、あたしたちを見上げる。

「何?」

「さーちゃん、チア部だっけ?」

「チアの部長」

 そう言って、あたしたちがさっき閉め出されたばかりの扉に手をかける。

「あぁ……」

 あたしといっちーから絶望のため息が漏れた。

そんなあたしたちをさーちゃんはにらみつける。

「何よ、見学? 鬼退治はどうした」

 フンと鼻息を残して、乱闘騒ぎの続く渦中へと消えた。

とたんに中が静まり返る。

「あー」

 状況は非常によろしくない。

「どうする?」

「今日のところは一旦引こう」

「いいの?」

「作戦立てた方がいいよ。このまま突っ込んでも、いいことないだろうし」

「……。分かった」

 それからいつもの校舎裏に戻って、2人で剣の練習をする。

完全下校を知らせるチャイムが鳴り、あたしたちは外へ出た。

 快速の止まらない小さな駅前広場でも、夕方の帰宅ラッシュ帯にはそれなりの人手がある。

ビルの谷間に傾いた太陽は、徐々に赤みを帯び始めた。

いっちーはため息をつく。

「で、どうするよ、もも」

「向こうの事情がどうなってんのかは分かんないけど、それとこれとは話が別だから。あたしたちはあたしたちのことをやんないと」

 いっちーと今後の方針について話し合う。

まずは最終目標をはっきりさせること。

その実現のためには、手段を選ばないこと。

たとえどんな行動を互いにとったとしても、それは全て鬼退治サークル設立のためだと信じること。

「あんたたち、なにやってんの?」

 さーちゃんの声がして、振り返る。

「いま帰り?」

 彼女はためいきをついた。

「こんなところで制服に木刀ぶら下げてた厳つい女子高生同士が、腕組みしながらなにを真剣に話し合ってんのよ」

 あたしは覚悟を決める。

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」