職員室への呼び出しがかかったのは、その日の昼休みだった。

あたしはいっちーとそこへ向かう。

「失礼しまーす。なんっすかー」

 堀川は国語教師で、典型的によくある派手なオバさんだ。

いつもでも短すぎるピチピチのタイトスカートに、ボタンがはちきれんばかりの巨乳をブラウスから振りかざし、眼鏡をかけた厚化粧はS系イヤミ教師そのもの。

「コレ、あんたたち?」

 見せられたのは、鬼退治サークルの創立申請書だ。

「え? 先生が顧問やってくれんの?」

 バン! と、堀川はそれをテーブルに叩きつけた。

「冗談じゃないわよ。なんで私がこんなことしなくちゃいけないの」

 肩までの髪をさらりとかき上げる。

「面倒なこと言ってないで、さっさと諦めなさい。あんたね? 最近木刀持って校内うろついてるってのは」

 職員室の事務的な椅子がキィと鳴った。

そのままあたしといっちーを見上げる。

「今更なんなの? こんなことにこだわってるのなんて、時代遅れもいいとこじゃない」

 堀川の視線はあたしたちをくまなく観察していた。

「今だってこん棒持ってないじゃない。なによ。そんなんで本当にサークル起ち上げる気?」

「今は学校だから。鬼は出ないし……」

「ふざけんじゃないわよ。帯刀者ってのはね、寝る時以外はずっと肌身離さず身につけているものなのよ」

 盛大にため息をつかれる。

「ま、所詮そんなもんよね、あんたたちなんて。どうせメンバー5人も集まらないでしょ。創立許可は下りたけど、期限は一ヶ月よ。その間にメンバー集まらなかったら、取り消しになるから」

 眼鏡の奥の大きな目が、キッとあたしたちをにらんだ。

「じゃ、せいぜい頑張って」

 職員室を出る。さっきまでの賑やかな昼休みが、まるで異次元の喧噪みたい。

いっちーは不安そうにつぶやいた。

「どういうこと? 一ヶ月以内にメンバー集めないといけないなんて、知らなかった」

 堀川の話によると、どんなサークルを作りたいのか、生徒が出した申請書を審査して、まず学校がそこに許可をだす。

作っていいよって言われてから、実際に作る準備を始めて、条件を整えたところでまた審査する。

それで通れば晴れて成立ということになるらしい。

「ま、なんとかなるっしょ。うちらの他に3人集めればいいだけだし」

 ふと顔を上げれば、廊下を歩いているクラスメイトが目に入る。

「ねぇねぇ、ちょいとそこの素敵なお嬢さん?」

 あたしは通りすがりのしーちゃんの肩に、腕を置いた。

「サークル起ち上げのメンバーにさ、名前だけ貸してもらいたいんだけど、どう?」

「あはは、ももの鬼退治ぃ?」

「そ」

 堀川から渡された、真っ白なサークル名簿を見せる。

「いいよー。もも頑張ってー」

 その様子を見ていた周りの連中も、わらわらと近寄ってきた。

「なになに? 鬼退治サークル本当に作るんだ」

「名義貸し?」

「別にいいよー」

 約10分足らずで、あたしといっちーを含めた7人の署名が集まる。

職員室へ向かった。

「こんなもん、認められる訳がないでしょう!」