「ももはなに?」

「コーヒーショコラアーモンド」

「いつものやつだ」

「いっちーは?」

「ベリーベリーベリー」

 アプリの期間限定ポイントが余ってるとかで、それを使って30円引きになった。

「あれ? ももじゃん」

「むーちゃん?」

 振り返ると、むーちゃんと猿木沢さん、他に知らない子が二人。

「ももは相変わらずソレなんだね」

 むっちゃんにアイスを差し出す。

彼女はそれを一口かじった。

「買いに来た?」

「うん。ポイント使いに」

「余ってるよ」

「あ、欲しい」

 スマホを取り出す。

あたしといっちーの周りをむーちゃんたちが取り囲んだ。

猿木沢さんは何でもないみたいな顔をして、少し離れた位置から横を向いている。

「名前は? なんて呼ばれてんの?」

 あたしはむーちゃんに聞く。

「猿木沢、さーちゃんだよ」

「さーちゃんはいいの?」

 あたしがそう呼んだら、彼女はムッとした顔をした。

「スマホ出しなよ。ID交換しよ」

「あ、そのスマホケースかわいい」

 いっちーがそう言うと、さーちゃんは彼女をギロリとにらみ上げる。

あたしはいっちーが舌打ちしたのを聞き逃していない。

そのむーちゃんたちと別れて先に座っていたテーブルに、むーちゃんたちは当然のようにやってきて腰を下ろした。

「あ、ココナッツパイン?」

「ピーチオレンジ買ってみた」

「ミルクキャラメル塩バター!」

 無言のさーちゃんが食べてるのは、きっとバニラバニラバニラだ。

女子高生が6人集まれば、みんなそれぞれに違う味を買って、一口もらったり交換したりとかもする。

まず学校と先生の悪口が始まって、やがてそれはゲームとか動画の話題に移る。

テーブルに立てかけてあったあたしのこん棒に、何かが当たった。

「こんなところにこんなモンが置いてあったら、危ないだろうが! 周りのこともちょっとは考えろ!」

 四十過ぎくらいのおっさんだ。

あたしたちのテーブルをギロリと見下ろす。

こん棒はちゃんと邪魔にならないように立てかけてあったから、このおっさんがわざわざ近寄ってきて足を出さない限りはぶつからない。

「なんだ? こんなところで女子高生だけで集まって、鬼退治の相談か?」

 その顔に気色悪い笑みを浮かべた。

「俺もな、昔やってたんだよ鬼退治。ちょこっとだけどな。教えてやろうか?」

 手を左右に振っている。席を空けろとのサイン。

「え、頼んでませんけど」

 いっちーが言った。

「誰ですか?」

 あたしはぼんやりと、ここでこん棒振るには狭すぎるなー、どうしよっかなーとか考えている。

「は? なに? このオ、レ、が! 教えてやろうかって言ってんの。分かる? ありがたい話しだろうが」

 男は急にぐにゃりと表情を変えた。

自分では「優しい笑顔」のつもりらしい。

「君たちだけじゃ不安でしょ? 俺が付いてちゃんと教えてやるからさ」

「いらねーよバーカ。さっさと帰れや」

 あたしの言葉に、男の顔色は変わった。

「あ、それ、私の彼氏のです。今トイレ行ってるんですけど」

 金髪坊主のさーちゃんが、男の蹴ったこん棒を指さした。

男の視線はパッと彼女に移る。

さーちゃんはにっこりと微笑んだ。

「私の彼氏、つい最近鬼退治始めたんで」

「あぁあぁそうかそうか。じゃ、そっちに聞けばいっか」

 驚くほどの猛スピードで男は消える。

人間、あんな機敏な動きが出来るものなのかと逆に感心した。

「え、彼氏いたの?」

 いっちーは小声で尋ねた。

さーちゃんの眉間に思いっきりしわが寄る。

「んなもん、いるわけねーだろ」

 どっと周りにいた三組メンバーは笑った。

「いつものワザだよね。さーちゃんの妄想彼氏」

「男は男だせば引っ込む説の証明」

「ムカつくよねー」

 さーちゃんはフンと鼻を鳴らす。

「こんなところでこん棒振り回そうとか、頭おかしいだろ。だから鬼退治してる奴はバカにされんだよ」

 いっちーがガタリと立ち上がった。

完全に頭に血が上っている。

「やめなよ。アイス溶ける」

 いっちーは何かを言いたげにあたしをにらんできたけど、本当にアイスが溶けちゃう。

「これからベルト買いに行くんだ」

「そっか。好きにしなよ」

 金髪坊主の美少女はにっこりと微笑んだ。

「じゃ。私たちもう行くね」

 さーちゃんたちと別れて鬼退治関連グッズ売り場に移動してきても、いっちーはまだ腹を立てていた。