いっちーと一緒に鬼退治サークルを作るとして、サークル認定されるためには部員が足りない。

いくら条例で『鬼退治をしようとする者は必要と認められた場合他に優先される』とはいえ、まぁそう簡単にいくもんでもない。

「ねぇ、一緒にベルト買いに行こうよ」

 いっちーはあたしに自分のスマホ画面を見せた。

「もも、何だかんだでまだ買ってないっしょ」

「欲しいとは思ってんだけどねー」

「ほら、これなんかどう?」

 いっちーが探してくれたのは、ピンクの細い革ベルトにお花やふわふわのついたかわいくてお洒落なやつ。

「かわいい」

「ね、いいよね!」

 いっちーはうれしそうに画面をタップする。

「ネットで注文しちゃう? 同じの2個頼む?」

 確定画面に進もうとして、指が止まった。

「やっば。これ5万もする! あームリムリムリ」

「いっちーんとこので、何かいい感じのないの?」

 彼女はそのまま超高速タップでスマホ検索を続けている。

「あんなのやだ。かわいくないもん」

 昼下がりの放課後はどこまでものんびりで暖かくて、あたしは学校を取り囲む高い城壁にもたれて、襲い来る眠気と激しい死闘を繰り広げている。

「ねぇもも。コレは? あ、待って。もっと安いの探す」

「いっちーがいいなら何でもいいよ……」

 寝落ちしそうだ。

横を向こうと片膝を立てると、スカートの裾は太ももを滑った。

芝生の絨毯を踏むわずかな足音が聞こえて、いっちーもそれに反応する。

「うわ。マジだ」

 猿木沢さんだ。

「バカが増えてる」

 彼女は仁王立ちであたしたちを見下ろした。

おっぱいが大きすぎて顔が全部見えない。

「誰がバカ? お前?」

「何その棒」

 いっちーは彼女をにらみ上げる。

猿木沢さんはフンと鼻を鳴らした。

「堂々とこん棒担いで歩いてるバカが現れたと思ったら、早速感化されたバカが増えたって聞いてさ。信じられなくて見に来たの」

 猿木沢さんは呆れたようにため息をついた。

「マジでガッカリ」

「じゃあわざわざ話しかけてくんなよ。サルが」

「脳筋のくせに口答えしてくんなや」

 いっちーはこん棒をつかんだ。

立ち上がろうとするその腕をつかむ。

「いっちーやめな」

「あんたが、ももね」

 猿木沢さんはあたしを見下ろす。

「同じ学校にいるのも恥ずかしいから、さっさとやめてよね」

 その一言だけを残して、彼女は立ち去った。

金色の短すぎる髪が日の光を反射する。

なんでそんなことをわざわざ言いに来たんだろ。

いっちーはその背中に向かって吠えた。

「なにアレ? それを言うためだけにうちらを探して来たの? そっちの方がバカじゃない?」

「あの子知ってるの?」

「知らん!」

「えらい絡まれるじゃん。いつも」

「知らないよ。知らないけど、何かいっつも喧嘩売られてる」

 あたしはいっちーを見つめた。

「好きなんじゃない?」

「なんでだよ!」

 このままここに居ても仕方がないので、あたしたちは学校を出た。

もういっそ近くのどっか売ってる店でベルトを買ってしまおうかという話になって、そこへ向かう。

大型ショッピングモールはいつだって賑やかで、ここにくればとりあえず一番最初にアイスを買うのはお約束。