きみに ひとめぼれ



まぶしい日差しに澄んだ空気。

すがすがしい登校時間だった。


「よお、園田ー」


今日も渾身の力であいつは僕の背中をたたいた。

ほとんど吹っ飛びそうな勢いで僕はつんのめった。


「いってえな。手加減しろよ」

「早く行こうぜ、朝練遅れるぞ」


あいつは機嫌がよさそうだった。


「昨日とは別人だな」

「そうか? 一晩寝れば、人間はこんなもんだろ」


よくわからないけど、僕はそんなもんでもない。

人間ではないのだろうか。


とにかく、あいつはすがすがしい表情をしたまま、まっすぐ前を向いて歩いた。

その隣を、僕もいつも通り歩いた。

僕よりほんの少し高い背丈、リズムよく刻まれる歩調。

いつもの朝に、いつもの足並み。

いつも通りなのに、今日はなんだか安心感があった。

僕の隣を歩くのが男子だからか、それとも、あいつだからか。


「なあ園田」


突然あいつに呼び止められた。



「おれ、本当に告ってもいいのかな?」



その言葉に、一瞬胸のあたりがズキンとなる。


ちらりと横を見ると、あいつはやはりまっすぐ前を向いたままこちらを見ようとはしなかった。

あいつの視線の行き先を追いかけた。

そこには、坂井さんがいた。


僕たちのほんの数メートル先を、彼女は一人で歩いていた。


あいつに視線を戻すと、もう彼女から視線を外す気はないようだ。



どんな答えを求めているんだろう、この僕に。

あいつは隣で歩調を合わせながら、僕が答えるのをじっと待っていた。





「…………だめ」





 僕はぽつりと言った。




__そんなの、ダメに決まってるじゃないか。

  そんなこと聞くなよ。

  わかってるくせに。




目の前に広がる地面が、どんどんぼやけてくる。


僕はその目を閉じて、ゆっくり鼻で呼吸をした。





「……って言っても、行くでしょ?」




僕はうっすらと目を開けて言った。

声だけは努めて明るくしたつもりだった。

どんな風に聞こえていたかは、もうわからない。


「先、行けよ」


そう言ったけど、あいつは何も言わずに僕と歩調を合わせ続けた。

いつもの歩調。

隣を歩く、ゆるゆるとした心地よい速さ。

いつもの、安心する足並み。


だけど、安定していた歩調が速度を上げるのがわかった。

あいつの背中が僕の視界に入ってくる。

そして、どんどん遠ざかっていく。

僕はゆっくりと歩みを止めた。

そして、その結末を、しっかりと見届けようと思った。



 あいつが手を伸ばす。

 彼女との距離が縮まって、そっと彼女の肩に触れた。

 その手は信じられないほど優しかった。

 僕の時とは全く違う力強さ。

 見とれてしまうほど、恥ずかしいほど、彼女への愛おしさを感じた。


振り向いた彼女は驚いていた。


二人がどんなやり取りをしているかはわからない。

ただ二人は歩調を合わせて歩いていた。

でもその距離は、なんだか微妙で、遠くから見ている僕にもぎくしゃくしているのがわかる。

だけど次第にその距離が縮まっていく。

いつも通りの、あいつの笑顔がちらりと見えた。



坂井さんが、急に足を止めた。

あいつが先に歩いていくのを、ぼんやりと目で追っているようだった。

だけど、しばらくすると両手で顔を覆って俯いた。

なんとなく、肩が震えているような気がした。



__早速泣かすなんて、絶対許さねえぞ。




 だって彼女は、

 僕の好きな人なんだから。