きみに ひとめぼれ



 あの時、何と言っていたらよかった?

「代わってくれ」なんて、「代わってほしい」なんて、あいつの厚意を素直に受け取るなんて、できるはずなかった。


__今さら、何言ってんだよ。


何だか悲しくて、イライラしてきて、僕はあいつを外に残して先にバスの中に入っていった。 



バスに乗り込むと、元の席に戻った。

僕が座っていた席の後ろは、まだぽっかり空いている。

その席を一瞬見て、僕は自分の席に座った。

そして、みんなが元の場所に腰を落ち着けると、バスは再び出発した。


僕はスマホを手にすると乱暴にロックを解除して、何の目的もなくスマホの画面をスライドした。

自棄になっていた。

とりとめもなくネットニュースを読み漁った。

情報は何も入ってこない。

何も面白くない。

スマホの画面をいったん切ったけど、もう一度明るくした。

先ほど送られてきた写真でも見て、修学旅行の思い出にふけることにした。

ああ、ここも行ったな。

こんなの食べたな、と思い出がよみがえってくる。

京都の風景とか、食べたものの写真が中心で、僕たちが映る写真はほとんどない。

あってもグループでなんとか撮った集合写真が何枚かあるぐらいだ。

怒涛の旅行日程だったけど、女子に連れまわされて、そのサポートばかりしていたように感じるけど、それも含めて全部楽しかった。

そう思えたのは、写真に写る坂井さんの笑顔がまぶしかったからだ。

どの坂井さんも、輝いて見える。

その写真たちに頬を緩ませた。

気持ちがだんだん落ち着いていった。

リズムよく画面をスライドしていた。

それなのに、ふと指が止まった。

たった一枚の写真で。



あいつと坂井さんが、顔を見合わせて笑っている写真。



そこに写る坂井さんは、今まで見たどの写真の坂井さんよりも輝いて見えた。


その目に映るのが、あいつだから。


僕はその写真を長い間じっと見つめた。

坂井さんのかばんに張り付く、生八つ橋に目を留めて。



はーっと大きなため息が漏れて、天井を仰いだ。

頭と背中を背もたれに預けた瞬間、どしんと思いがけず大きな振動となってしまった。

後ろには、あいつと坂井さんがいるのに。

そんなつもりはなかったんだけど、思わず耳を澄ませた。

みんなが寝静まっている中で、バスの走行音に混ざって微かに声がするのがわかる。

だけど、ほとんど何も聞こえない。

僕の耳には、届かないだけだろうか。

鼻からどっと息を吐きだした。



じゃんけんは、運だ。

そうはいっても、公平に物事を決められる便利なツールじゃないか。

それなのに、どうして彼女の隣は僕じゃなくて、あいつなんだ?

僕は勝っても負けても、彼女の隣にいることはできないのか。

だけどあいつは、勝とうが負けようが、彼女の隣にいることができるのか。

全然、公平じゃないじゃないか。

所詮、じゃんけんでは、何も決められないんだ。