きみに ひとめぼれ



バスが出発してしばらくすると、サービスエリアに着いた。

僕とあいつは一緒にバスを降りた。

あいつは相変わらず僕と目を合わせようとしなかった。

何か話そうともしなかった。

僕も、何を話していいかわからなかった。

いつもの感じでなんとなく一緒にいたけれど、声のかけ方も忘れてしまったように話せない。

トイレに行って、飲み物を買って、そこまで行動を共にしたのに、僕たちにやっぱり会話はなかった。

だけど、バスに乗り込む前にようやくあいつが口を開いた。


「よかった? 席」

「え?」


それしか言葉が出ない。

またドキドキと心臓がうるさく高鳴りだす。

あいつはやっぱり僕と視線を合わせないまま言った。


「おまえが座るはずだったのに」


あいつの口調はとても穏やかだった。


「別に、いいよ」

「せっかく女子とお近づきになれる貴重なチャンスだったのにな」

「そんなチャンスいらねえよ」



 僕のその答えは、たぶん、半分強りだ。


「おまえは、良かったの? せっかく勝ったのに」


 その問いかけに、あいつは答えなかった。


夜が近づいてきて、空はだんだん暗くなってくる。

その暗闇の中から吹いてくる風は、すっかり冷たくなっていた。

僕の体は少しだけガタガタと震えていた。

だけど、あいつはその風に真正面から吹き付けられても全然動じなくて、むしろすがすがしい顔をしていた。


「うん」


その風の音に紛れるように、あいつの返事が聞こえたような気がした。

その言葉に、その表情に、何も返せなかった。

二人で十分風にあたっていると、集合時間になった。


「そろそろ行こうぜ」


そう僕が言わないと、たぶんあいつも僕も、その場にずっといたような気がする。


「なあ、園田」


バスに乗り込もうと動いた瞬間、あいつが声をかけた。

振り向くと、あいつは僕にちゃんと視線を合わせていた。


「席、代わろうか?」


 気持ちがぐらぐらと揺れた。

 あいつの目が、僕を捕まえて離そうとしなかった。 

 あいつは僕をじっと見て、答えを待っていた。

 僕はぐっと歯を食いしばった。

 そして、答えた。



「いいよ、別に」