きみに ひとめぼれ



女子に連れまわされてお土産屋を回り、ようやく休憩させてもらえた。

男子三人で飲み物を買いに行ってトイレに寄った。

お土産はほとんど何も買えていない。

買えていないどころか、女子たちに京都の甘味をおごったり、写真を撮ったりしているだけだ。

僕だって修学旅行の思い出が何か欲しい。

そんな風に思いながらトイレの洗面台に立とうとすると、あいつが先に手を洗っていた。

鏡に映るあいつは、なんだか楽しそうだった。

そりゃそうだろ。

坂井さんと良い感じなんだから。



 二人は、もう付き合っているのだろうか。

 いや、そんな感じではない。

 教室で話すこともないし、一緒に帰ることもない。

 二人の距離は、僕から見ても縮まったとはいいがたい。

 だけど、思い当たることは多々ある。


 聞いてみようか。


 聞いてみたい。


 今、二人はどんな関係なのか。


後ろからあいつにゆっくりと近づいた。

そしてあいつと並ぶ手前で、僕はあいつのリュックに不思議なものを見つけた。

思わず二度見してしまった。


 生八つ橋だ。


さっきお土産屋さんで試食しまくった生八つ橋が、あいつのリュックに張り付いている。

あいつは「黒ゴマ味が上手い」と絶賛していくつも食べていたけど、こんなところに連れ帰ってきている。

僕は恐る恐る声をかけた。


「お、おい、おまえ、八つ橋くっついてるぞ」


と指摘して、その八つ橋をはがそうとした。

僕の指先にざらっとした手触りと、プルンとした感触が伝わった。

でも、はがすことはできなかった。

それに気づいたあいつは慌ててかばんを抑えた。


「おお、園田。騙されたか」


あいつはおかしそうにイヒヒと笑った。


「え?」

「これ、生八つ橋の食品サンプル。しかも黒ゴマ味。すごいだろ」


あいつがかばんをこちらに向けて「触ってみ」と言うので、改めてその感触を確かめた。


「超リアルだろ。一瞬で惚れたね」

「お前こういうの好きだっけ?」

「別に好きとかじゃないけど、何となく目に留まって」
 

あいつは生八つ橋を愛おしそうに見つめた。


「良いお土産になったと思わない?」


 そうだろうか。

 僕にはさっぱりわからない。


「おまえも買う?」

「いらないよ、そんなの」


そんな会話をしながらトイレを出た。

そのまま僕は土産物屋に入った。

自分の修学旅行のお土産を探しに。

あいつは「これでもう十分」と言って、先にグループの集合場所に向かった。


狭い店内をぐるりと見て回ると、あいつがかばんにつけていた生八つ橋の食品サンプルがずらりと並んでいる。

僕はそれを手に取って、すぐに戻した。

結局ピンとくるものがなくて、家族へのお土産を買って僕の修学旅行は終わった。

買ったお土産は、やっぱり生八つ橋だった。

それは、食品サンプルではなく、本物の生八つ橋だ。