あいつは体の線が細く、見た目も気だるそうだから、サッカー部に入っていることはおろか、部活に毎日行っていることさえ意外と思われる。
しかし運動神経はめちゃめちゃいいのだ。
だから体力テストもなかなかの記録を出す。
それは学力面然りだった。
目立とうとしない性格ゆえ、良い結果が出ても話題にされない。
それに加え、広瀬や本田のような見た目に華やかな男子にうずもれていくので、どんなにすごい記録を出そうが、注目されることはなかった。
当の本人は何とも思っていないけれど。
その秘められた運動神経の良さから、体育祭では体力テストの結果によって選出される対抗リレーの選手になった。
そういえば、去年の体育祭でもリレーの選手に選ばれていたっけ。
「めんどくせえなあ」なんて愚痴りながら。
そんなこと言うなら、体力テストだって手を抜けばいいのに。
軽い気持ちでそんなことを言ったら、あいつは、
「50メートル走だけは、なんとなく本気で走らないといけないような気がする。
サッカー部として」
なんて、真面目な顔で言った。
「それを言うのは陸上部だろ」なんて突っ込んだら、あいつは「ははっ」とおかしそうに笑った。
結果、あいつ自身、去年は本当にバトンをつなぐためだけに走っていた。
体育祭を盛り上げることも、全校生徒の記憶に残るような走りをすることもなかった。
意識しなければ、あいつが走ったことなんて誰も覚えていない。
僕でさえ「そういえば」なんていう程度にしか思い出せないんだから。
だけど今年のあいつは、去年のあいつとは違った。
大いに体育祭を盛り上げ、間違いなく全校生徒の記憶に残った。
一年から順にバトンがつながれて、3年生がアンカーで走る。
だけど、メインはほぼ僕たちの学年だった。
なんと言っても広瀬と本田がいるのだから。
女子たちの歓声の色が一気に変わる。
この二人がスタートラインに並んだ瞬間から、運動場はアイドルのコンサート会場のようになる。
その中に、あいつもいた。
何だか場違いのようだけど、それは、去年と何も変わらない光景だった。
僕も去年と変わらず、委員会の仕事としてリレー選手の誘導係をしていた。
走ってくる順番に、次の走者をスタートラインに並ばせる仕事だ。
それだけの仕事と思われるけど、これが結構大変なのだ。
代表に選ばれるくらいの俊足を持つ男たちが、ほんの数秒でグラウンドを一周してくる。
その戦いはすさまじい。
混戦になれば、次の走者の並びもこちらの正確なジャッジが求められる。
次は何色のはちまきが来るのか、ぎりぎりまで見守り、次を送り出すのが僕たちの仕事だった。
こんなせわしい仕事をしながら、僕はこの戦いを間近で見ることになった。


