約束通り、勝見君は図書室で待っていてくれた。
今日も椅子に横に腰かけて、足を組んで頬杖をついて本をぺらぺらとめくっていた。
その姿に、やっぱり見とれてしまった。
勝見君は私に気が付くと「よっ」と言って本を置いた。
私もその声を合図に我に返る。
「ごめんね、待った?」
「大丈夫、大丈夫」
その言葉に引き寄せられるように勝見君の隣の席に座った。
勝見君は今日も丁寧に私に教えてくれた。
勝見君は言葉で説明しながら、さらさらとシャープペンを動かしていく。
すらすらと解いていく勝見君の声や手の動きは、まるで魔法を使っているようだった。
記号や数字、放物線や座標がノートの上につらつらと記されていく。
その動きがなんとも不思議だった。
声の調子と手を動かす速さが合っていて、聞いてて心地よく、頭の中まで整理されていく。
この教科書もノートもシャープペンも問題さえも、すべて勝見君に操られているように見える。
私の頭に、ポーンと放物線を描くサッカーボールが思い浮かんだ。
あの後も、掃除当番そっちのけで窓際に張り付いて勝見君の姿を見ていた。
「あかりー、あとゴミ捨てお願いねー」という声にも「はーい」と生返事をするだけで、勝見君を夢中で追いかけた。
勝見君の動きに合わせて舞うサッカーボール。
勝見君のリフティング。
勝見君のドリブル。
勝見君のパス、どれも正確でうっとりしてしまう。
そう、リフティングもドリブルもパスも……
「じゃあ、坂井さんもやってみて」
勝見君の声で現実に引き戻された気分になる。
そこで、ふと疑問に思ったことを聞いた。
「勝見君は、どうしてシュートをしなかったの?」
勝見君はぽかんとしている。
「俺の話、聞いてた?」
「ゴールの手前まで来てたのに、広瀬君にボールをパスしたでしょ?
勝見君にだってシュートできる距離だったのに。
そのあともずっとそうしてたよね。
どうして?」
気になってしょうがない。
何もかも完璧だったのに。
ドリブルも、パスも。
じゃあ、シュートは?
勝見君はシュートだけはしなかった。
勝見君がシュートするところも見てみたい。
だって、きっと……
勝見君はゆっくりとャープペンを置いて、「うーん」と言いながら腕を組んで、椅子の背もたれにとんと背中を預けた。
ちょっと考えて、それから困ったように答えた。
「それが俺の仕事だから、かな。
ボール運んで相手を蹴散らして、一番確実に点を決められそうなやつにパスを送る。
で、試合を盛り上げてもらう。
チームプレーってやつだよ」
「でも、自分でシュートしたいなって思わないの?
シュート決まると気持ちよさそうだし」
「確かにそうかもしれないんだけど……
俺は華やかにシュートを決めて盛り上げるっていうタイプじゃないから。
どこにだって花形と裏方っているじゃん。
俺は花形っていうより裏方って感じだし」
勝見君は当たり前のように話す。
私は納得がいかない。
だって、見てみたいじゃん、シュートするところも。
「俺はそういうのが好きだから良いんだよ。
なんていうか、空気みたいな」
私の表情を読み取ったのか、勝見君は私を諭すように言った。
その顔も声も楽しそうだ。
私の気持ちとは裏腹に。
私の声は「ふーん」と不機嫌だったと思う。
「じゃあ、勝見君のシュートは、一生見れないんだね」
なんだか悔しくて、寂しい。
「見てみたいなあ」


