きみに ひとめぼれ



チャイムが鳴る前に先生が来た。

みんなあきらめの言葉を口々に、鞄に教科書をしまって教室に入っていく。

私も開いていた教科書をパタンと音を立てて閉じた。

そして窓際の一番後ろの席に向かった。



__ああ、もうダメだ。



教科書を見てたって、何も得るものはなかった。

私の頭では勘すら追いつかないのだ。

前から問題用紙が回ってくる。

私の前の席に座るのが、勝見君だった。

こちらを見向きもせず、ひらりと用紙を後ろに回す。


__不愛想なやつめ。


私はするりと受け取って机に置いた。


先生の合図でテストが始まった。

数学のテスト。

どこから埋めていいのかも、私の頭ではわからない。

しばらくしても、解答欄は埋まらない。

はーっと息を吐いて前を見ると、勝見君は頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ている。

余裕なのか、それとも私と同じように諦めているのか。

長袖カッターシャツの袖を折り曲げたところからのぞく腕は細かった。

でもいい感じに筋肉質で、血管がうっすら浮き出ていて、思わず見惚れてしまった。


そこでふと気づく。


__あ、襟がおかしい。


 勝見君のカッターシャツの襟が、首元でおかしな向きに折れ曲がっている。


__さっきふざけてたからなあ。


 9月はまだ暑い。

教室のクーラーはガンガンに稼働していて、扇風機がその右腕として首を動かして冷たい空気を教室の隅々まで送り届ける。

よく働いていた。

教室の隅にいる私のところにさえ、ちゃんと風が回ってくる。

天井にある扇風機から送られてくる風の軌道を目で追いかけた。

目には見えないんだけど、一番後ろから見るみんなの背中や頭を眺めると、それが見える気がする。

カッターシャツが何となく膨らんで見える様子や、頭の頭頂部当たりの髪の毛がふわふわと揺れる感じとか。

目の前の勝見君の寝癖っぽい髪も、その風に気持ちよさそうに揺らいでいる。