きみに ひとめぼれ



授業が終わっても坂井さんはぼんやりしている。

岡田さんに話しかけられても、困ったように笑って、岡田さんが帰っていくのを小さく手を振って見送っていた。

一瞬だけど、岡田さんと目が合ったような気がした。

坂井さんは机に置いた鞄に顔を預けたまま動けないでいる。

今から掃除が始まるというのに、坂井さんはそのままだった。

その姿がたまらなくつらかった。


 放っておけない。

 俺でなんとかできるなら。

 なんとかって、何ができるんだろう。

 自惚れるなよ。

 彼氏でもないくせに。

 
どこかでそんな風に笑う自分がいる。

だけど今は、彼女のそばにいてあげたかった。

せめて、友達として。

友達……なのだろうか。


俺はぐるぐるとめぐる思考と、掃除を始める奴らを避けながら、ゆっくりと坂井さんの席に近づいた。


「坂井さん」


彼女はびくっと体を震わせたけど、こちらを見ようとはしなかった。


「大丈夫?」


何気なく聞いた質問に、彼女の鋭い視線が俺に向けられた。


「何が?」


顔が引きつって、声もくぐもっている。

俺は努めて明るく接した。


「今日、数学当てられてるじゃん。一緒に勉強しなくて平気?」

「うん、ありがとう。大丈夫だから」


彼女は俺から視線を外して、目を合わせずに低い声で淡々とそう答えた。


「大丈夫には見えないけど」

「もう、勝見君ひどいなあ。私だってやるときはやるよ」


 彼女は笑って俺をあしらうけど、目を合わせようとしない。


「何かあったら言ってよ。俺にできることがあれば手伝うし」


その言葉が引き金となった。

彼女の目は、きっと鋭くなって俺を刺した。


「勝見君には関係ないじゃん」


彼女の大きな声が教室中に響いた。

クラス中のみんながこちらに注目した。

彼女は唇をかんで、何かをこらえて、こらえきれずに教室から飛び出していった。