きみに ひとめぼれ



あれから何日経っただろう。

修学旅行疲れで、授業も部活もなかなか身が入らない。

ただただぼんやりと、俺と坂井さんの関係について考え、何度も自分の右手を眺める日々だった。

あの時の感触を、思い返すように。


バスが学校に到着しても、なかなか手が離せなかった。

もうこのまま外に出てしまおうかとも思った。

この手をつないだまま、帰ってしまおうかと。

ぐっと手に力が入った。


「おい、行こうぜ」


園田の声が聞こえて、体がびくっとなって思わず手を離してしまったのだけど。

こうして、修学旅行は終わった。

「好き」とも「付き合おう」とも言えずに。

言ってしまえばよかったのか。

言うきっかけ。

いつまでも、「次」を待ってていいのだろうか。


ふーっと今日何度目かのため息をついたとき、教室が急に騒がしくなった。


「本田君と太田さん付き合うことになったらしいよ」


そう言って教室にずかずかと入ってきたのは、以前坂井さんに本田のことをあれこれ言っていた女子だった。

「えー」と教室に歓声が上がる。


「修学旅行で太田さんが本田君に告ったんだって。

  太田さんたちが男子テニス部の前ではしゃいでいるのは知ってたけど、本田君もまんざらじゃなかったんだね」


俺はその話を受け流すように聞いていたけど、その名前にはっとして、思わず坂井さんの姿を探した。

坂井さんは押され気味に報告を受けていた。

その表情は曇っていて、だけどその目は鋭かった。

坂井さんは無理に笑顔を作って、何か言っているみたいだった。

よく聞こえなかったけど、明らかに楽しい話ではないことぐらい俺にもわかった。

ちらちらと聞こえるその女子の大きな声や仕草に苛立ちを覚えた。


チャイムが鳴って、何事もなかったかのように授業は始まった。

だけど俺は授業中も坂井さんが気になってしょうがなかった。

それはいつものことなんだけど、今日はなおさらだった。