京都はやっぱり楽しかった。
女子の要望に振り回されるだけのつまらない旅行になるかと思いきや、そうでもなかった。
そう思っていた俺が楽しいと感じたのだから、計画を立てた当の女子たちはさぞかし楽しかっただろう。
なんとか旅程をこなそうと必死になる。
思い出の写真を撮りまくる。
京都のスイーツを撮りまくるし食べまくる。
お土産屋に片っ端から入って好きなものを買う。
女子たちは、ほんの些細なことにも目を輝かせた。
その中に坂井さんがいて、その近くにいられることが嬉しかった。
「ねえねえ、勝見君」
と、俺の二の腕辺りを興奮気味にパタパタと何度も叩くんだけど、その行動はあまりにも無防備すぎた。
だけど体に伝わるその無邪気な衝撃も、名前を呼ぶ声も、俺にはすべて心地よかった。
視線は、まあ、美味しそうなスイーツやかわいいお土産品に注がれてるんだけど。
「んー、これおいひぃ」
と試食用の黒ゴマ味の生八つ橋を、目を細めてほおばる彼女は、感動的な可愛さだった。
少しでも顔が曇れば、休ませる。
お土産を買ったらその袋を持つ。
求められなくてもシャッターを押す。
ちょっとしたおやつならおごる。
デートをしているみたいだった。
彼氏になった気分だった。
いや、もう他の男子と同じ眼差しでもいい。
その眼差しをこちらに向けてくれるのなら、どちらでも幸せだった。
二泊三日の京都旅行を終えて、いよいよ学校に戻る時間となった。
バスの周りには京都を惜しむ人やまだお土産が足りないと走る人、トイレに向かう人が多かった。
俺たちは早めにバスに乗り込んだ。
バスの中にはほとんど人がいなかった。
帰りももちろんじゃんけんで誰が女子と座るかを決める。
その結果は、すでに出ていた。
俺は、ちゃんと勝ったんだ。
そして、俺を先頭に三人でバスに乗り込んだ。
バスに乗り込んで、ずらりと並ぶ座席を眺めてはっとなった。
坂井さんが、一人で座っていた。
岡田さんたちはいない。
一人なのだろうか。
どういうつもりで、一人で座っているかわからない。
本当に一人なのか。
それとも、後から隣に誰かが座るのか。
だけどそんなことを考える前に、また俺の頭の中で声がする。
__行け。
俺はその声のままに、まっすぐその席に向かった。
彼女は頬杖をついて窓の外を見ていた。
なんだか寂しそうだった。
そうだよな、あんなに楽しそうだったし。
帰りたくなくなるよな。
彼女の心中を察しながら、俺はそっと声をかけた。
「ここ、いい?」
坂井さんは驚いてこちらを見た。
「あ、うん、どうぞ」
鞄を足元に置いて、彼女の隣に座った。
俺は他の二人のことを気に留めようとしなかった。
きっと不審に思っているに違いないんだけど、二人は俺たちの前の席に素直に座った。
とりあえず彼女の隣に腰を落ち着けたんだけど、特に会話もない。
俺は落ち着きなくスマホを手にしていた。
特に何か見るわけでもなく。
しばらくすると岡田さんたちもバスに乗り込んだ。
そのあとすぐに後ろから声をかけられた。
「ねえ勝見君、写真送るから連絡先教えて」
「ああ、うん、ありがとう」
驚いた。
女子に連絡先を聞かれるなんて初めてだった。
まあ、写真を送るという名目だから、気持ちとしては複雑なんだけど。
岡田さんと連絡先を交換する。
その流れで坂井さんとも連絡先を交換できないか?
どさくさに紛れて聞いてみようか。
俺が心の準備をしていると、早速メッセージが届く。
岡田さんはグループを作ってそれに招待してくれた。
俺が承認すると、そのあとから坂井さんもメンバーに追加された。
思わぬ形で坂井さんの連絡先を知ることになった。
それから大量の写真が送られてきた。
思い出を振り返るように写真に目を落とした。
坂井さんが笑っている。
そして、そこに自分も写っているのが不思議だった。
大量の写真を一枚一枚スライドして見ていくと、ふと、ある写真で指を止めた。
自然と頬が緩む。
俺と坂井さんが二人で話す姿が、隠し撮りのように収められていた。
この旅行中にこんな瞬間があったことが嬉しかった。
俺たちは、こんな風に写るのか。
坂井さんは、俺のこと、どう思っているんだろう。
ちらりと彼女を見ると、彼女もスマホをゆっくりとスライドしていた。
口元が緩んでいて、楽しかったことが伝わってきた。


