きみに ひとめぼれ



そんな大型イベントが終わると、いよいよ修学旅行だ。

修学旅行は俺にとって高校三年間で最大のイベントだと思っている。

年に一回ある体育祭や文化祭より、三年間で一度きりの修学旅行は一大イベントだ。

行き先は京都。

制服着用は窮屈だけど、だらだらと京都の町をぶらつけるのだ。


修学旅行は男子三人、女子三人の班行動で、そのスケジュールも基本的にグループごとに決める。

そうはいっても、やはり計画の主導権は女子だった。

そのスケジュールは女子たちによってパンパンに詰め込まれた。

男子は各々意見を言うけれど、女子のパワーには負ける。

そのパワーの中に、坂井さんも含まれている。

話し合いの合間に、他のグループに目をやった。

クラスでも目立つ男子たちのいるグループはすごく盛り上がっていて、騒がしい男子の中で女子は楽しそうに笑っていた。

あんなふうに盛り上げて、女子を引っ張っていける男子だったら……。

そんなことを思ってはみるんだけど、盛り上げられなくても、引っ張っていけなくても、このグループの女子たちは楽しそうだった。

坂井さんも笑っていて気持ちがいい。


笑っている顔。

うきうきした声。

紙に埋め尽くされていく計画の文字。

それを見ているだけで満足だった。

俺も淡々と班行動の日程を決めていくんだけど、表面上は楽しんでいても、内心は全然落ち着かなかった。


彼女はあの日のことをすっかり忘れてしまったかのように俺と接した。

ただの、同じグループの男子として。


その後どうなったかというと、特に何か関係が発展したわけでもない。

俺たちの距離はそのままだし、目が合うことがあってもそらしてばかりだ。

特に話しかけたり話しかけられたりもない。

振り出しに戻ったようで、一定の距離は変わらない。


どうしてこんな平気でいられるんだろう。

あんなことがあったのに。

俺なんて、心臓が飛び出しそうな出来事だったのに。

坂井さんだからなのか。

それとも、女子はみんなそんなもんなのか。

あれが普通で、男子に求める最低限の勇気で、それは当たり前なのか。

わからない。


とりあえず、修学旅行の計画で話すきっかけのようなものができたのは、必然の前進かもしれない。

俺はそう自分に言い聞かせて、紙に埋め尽くされていく修学旅行の計画を眺めた。

時々、


「勝見君はどう?」


なんて、楽しそうに聞いてくるから、


「それでいいよ」


と同意する。

一見デートの計画を立てているカップルのようだけど、俺に聞いた後には他の男子二人にも同じように聞く。

同じ視線と、同じ眼差しで。

ほら、また。


「ねえ、勝見君は?」

「それでいいよ」

「もう、そればっかだなあ。どこか行きたいとこないの? 

 もっと意見だしてよ」


「だって、言っても採用されないじゃん」

「そんなことないよお、ねー」


と、女子同士で顔を見合わせて楽しそうに笑う。

彼女のセーラー服が、俺のすぐ近くをこすって逃げる。

カッターシャツとは違う匂い。

ごわごわとして重たい生地。

ちらりと目をやると、首元が開いていて彼女の鎖骨がよく見えた。


10月に入ってからの衣替えは、一気に季節が移ろいで行くのを感じさせた。

ほとんどの生徒が学ランとセーラー服に身をまとっている。

彼女のカッターシャツ姿が、もうすでに懐かしくて恋しい。

薄い生地のカッターシャツ越しから伝わる彼女の体温や空気感や匂いを思い出していた。


__セーラー服か。


あの夏が、どんどん遠い記憶になってしまうようだった。

だから坂井さんも、忘れてしまったのだろうか。