最後まで残っていた俺たちがプリントを職員室に持っていく。
一緒にやると言ったけれど、「勝見君は部活に行って」と彼女がすべてを請け負ってくれた。
本音を言えば、一緒にいたかった。
「じゃあ、よろしく」なんて言い残して、俺はサッカー部の部室に向かった。
着替えてグラウンドに行くと、俺はいつも通りウォーミングアップをして、リフティングをする。
真面目なんじゃない、こうしていると落ち着くのだ。
直感とはぼーっとすることで磨かれる、なんてのを何かの本で読んだことがある。
俺の直感とは、いつもこうして磨かれているのだ。
こうして磨かれた俺の直感はよく当たるし、結構鋭い。
いつだってその直感に自信がある。
信じることができる。
今は掃除時間中で、校舎のすべての窓が開け放たれている。
俺はリフティングをしながら自分の教室を探した。
いつもは気にも留めないのに、今日はそちらにばかり気が向いた。
今日はこっちの方から良い風が来そうな気がした。
そんなふうに期待していると、胸がそわそわとして落ち着かなくなってきた。
教室の窓際で、人影が動くのがなんとなくわかる。
放課後だというのに、午後の良い風はちっとも吹かない。
だけど、空はものすごく澄んでいて高く感じた。
だから、俺は良い風が吹くのを待った。
ピーっと集合の合図が鳴ってダラダラと顧問の近くに集まる。
「ダラダラするな」と一喝されて、チームに分かれて試合をする。
俺は今日もいつも通り送られてきたパスをゴールまで運ぶ。
ボールを取ろうとするやつをひょいひょいと切り抜けたり、フェイントでパスを出したり、ボールは俺の思うままに動いてくれるから面白い。
俺はサッカーが好きだった。
それだけは、自分のこととしてよくわかっている。
ゴール手前まで来て、シュートを決めるやつを探す。
広瀬だ。
今日もこいつは絶好調だな。
グラウンド脇で女子たちが声援を送っている。
広瀬にポーンと軽くボールを渡す。
ボールはきれいな放物線を描いて広瀬の足元にピタリと落ちる。
今日もうまくいった。
俺はここまででもうすでに満足だった。
すぐにシュートが決められる。
歓声とともに広瀬のもとにみんなが集まって、タッチしたり背中をたたいたり、頭をクシャっとしたりする。
それを受け終えた広瀬は俺のところにやってきて「ナイスアシスト」と爽やかに声をかけて去っていく。
ようやく風がスーッと吹いてきて、汗でぬれた首筋や髪に心地よかった。
転がったボールを拾い上げてリフティングをして息を整える。
ボールの行方を追いかけて体を動かしていく。
自分の教室が、ちらりと目に入った。
自然と体もそちらに向きを変える。
リズミカルに俺の体の上をはねるボールは、どんどん教室の方へ流れていく。
ボールがふわりと身長を通り越していったとき、窓際に人影が見えた。
窓の桟に手をついて、こちらをそっと見ている。
それが誰なのか、俺は何となくわかっていた。
俺が動きを止めたから、ボールは虚しく地面に落ちて転がっていく。
坂井さんと、目が合った。
こんなに離れているのに、俺たちはぐっと近くで見つめ合っているような気がした。
俺たちはそのまましばらく目を合わせていた。
坂井さんも、決してそらそうとはしなかった。
俺がいる位置からでも、坂井さんの目元と口元がゆっくりと緩やかに動くのが分かった。
俺もそれにつられて、表情筋を緩めた。
こんな風に視線を交わし合ったのは初めてだった。
こんなに遠いのに、彼女の存在がすごく近くに感じられたのが嬉しかった。
九月の暑さをさらっていくような、心地よい風がそよそよと俺たちの間を渡っていく。
良い風だ。
ほらね、俺の直感は、よく当たるだろ。


