__本田、か。
その聞き覚えのある名前を、俺はゆっくりと思い出していた。
本田とは一年の時に同じクラスだった。
出しゃばったり悪乗りしたり不良な感じではないけど、イケメンという分野でクラスでも学年でも、さらには学校でも目立つ存在だった。
髪はさらさらで、かっこいいというよりかわいらしい顔をしていて、さわやかな笑顔を振りまく王子的存在で女子に人気だった。
同じクラスだったにもかかわらず、俺は本田との特別な思い出話なんてない。
本田を取り巻く連中と、俺がつるむ連中は明らかにタイプが違った。
本田は、明るくて目立ってクラスや学校をぐいぐいと引っ張っていく連中とよく一緒にいた。
男子からも女子からも慕われて、いつでもその中心にいた。
本田自身は特別目立つことをするようなやつではなかったのに。
一方俺の周りは、冴えない男子の集まりだった。
男子ばかりで集まって、馬鹿な話ばかりして密かに盛り上がる。
恋愛や女子には縁がなさそうな連中ばかり。
そのくせ、「女子はみんな本田みたいなのが好きだよな」、「あんなやつのどこがいいんだよ」、と負け犬の遠吠えをしていた。
まあ、今回のことで、女子はやっぱりああいうやつが好きなのだということを、身に染みて思い知らされたんだけど。
とにかく、俺と本田に接点などできるわけがないのだ。
だって、全く真逆のタイプなんだから。
しかし、ここにきてようやく「坂井さん」という接点ができた。
「俺が好きになった坂井さんの好きな人が本田である」、という何とも複雑で遠回りな接点。
好きな人?
好きだった人?
「大丈夫だから」とは、何が大丈夫なんだろう。
もう吹っ切れたということか。
それとも、自分で何とかするからほっといてほしいということか。
坂井さんは引きずるタイプってことは、つまり、まだ本田のことが好きということか……?
好きな人のままなのか?
それとも、「好きだった人」なのか?
……
今日何度目かのループに襲われる。
頭の中はそのことでいっぱいだった。
執念で得た少ない情報を分析しても、結局同じところにたどり着く。
どちらにしろ、自分以外の男が彼女の心の中にいるという事実は、俺を何となくフラれた気分にさせていた。
まだ何も始まっていないのに。
彼女も俺を意識しているというのは、やっぱりとんだ勘違いと自惚れだったようだ。
舞い上がりすぎたか。
確かにそうかもしれない。
だって、俺と本田は真逆のタイプ。
中学の時も同じような感じの人を好きだったって、もうほぼ絶望的じゃないか。
坂井さんが俺を意識するなんて、はじめからありえないことなんだ。
自分の女子免疫のなさにほとほと呆れてしまう。
いろんな疑惑と落胆の中で、俺はつぶれそうだった。
恋愛って、こんなに難しいものだったろうか。
相手のことが好き。
ただそれだけで十分と思っていた幼い自分が懐かしいというか、羨ましい。


