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俺が通っている私立啓明館学園高校は東日本屈指のスポーツ名門校だ。
日本全国からスポーツエリートを特待生待遇でかき集めて、全校生徒が二千人以上いる。
運動部の数も数え切れないくらいあって、ウィンタースポーツ以外なら何でもあるらしい。
しかもそのどれもが全国常連クラスで、いつもどこかしらの部活が優勝しているから、校舎や校庭フェンスが垂れ幕や横断幕でびっしり覆われていて、結局どこの部がどんな功績をあげたのか把握しきれないくらいだ。
もともと一つの山だったところが丸ごと学校の敷地になっていて、東京ドーム三十個分くらいあって、千葉にある夢と魔法のリゾート全体より広いそうだ。
造成された区画ごとに、校舎や校庭はもちろん、野球場、天然芝のサッカー場、屋内プール、陸上トラックといった競技施設が建ち並んでいる。
それら一つ一つが、国際大会を開けるような規格で作られていて、初めて来た人は誰もがレベルの高さに驚嘆する。
それ以外にも、授業用の体育館はもちろん、バスケやバレーボール専用の体育館もあって、しかもその一つ一つには立派な観覧席やらシャワー室までそなわっているものだから、練習試合の対戦相手なんかは、「ふだんからこんなところでやってる相手に勝てるわけがない」と、施設を見ただけで戦意喪失してしまうとまで言われている。
敷地内には、全国から集まってくる多くのスポーツエリートのための学生寮や購買部もある。
学生寮は地元では啓明団地と呼ばれているし、購買部はショッピングモール並みの規模だ。
朝昼夜三食対応のフードコートはいつも混雑しているし、衣料品やスポーツ用品、日常の生活に必要な物などはすべて学園内で入手出来るようになっている。
その他にも音楽や芸術関係の活動も盛んで、管弦楽部と吹奏楽部の定期演奏会や、演劇部の公演はチケットが争奪戦で、CDやDVDが一般販売されていて、業界的にはかなりの売れ筋商品なのだそうだ。
全校生徒二千人とその保護者が一度に入れる大ホールはそこらへんの市民文化会館よりも立派だ。
音響デザインは世界的に有名な指揮者が監修したらしく、『吹奏楽の聖地』とか『音楽の殿堂』と呼ばれている。
文化祭や学校説明会の時には、ここを背景に記念撮影をしていく中学生がやたらといて、感動のあまり涙まで流していてこっちが引いてしまうくらいだ。
と、ここまで母校自慢をしてきたわけだが、俺はといえば、所属は帰宅部だ。
自宅と高校をダラダラと往復するごく一般的な高校生だ。
スーパーエリートばかりを集めた高校に俺みたいな自堕落な生徒がいても、べつにそんなに不思議なことではない。
一般募集枠もちゃんとあるからだ。
受験者は特待生にスカウトされなかったスポーツ選手や芸術目的の生徒がほとんどだから、意外と偏差値も高くはない。
平均的な頭の持ち主なら、だいたい合格できる。
俺の家はこの啓明館学園高校の徒歩圏内にある。
だから、小さい頃から、この高校に行くんだろうなと思って生きてきた。
全国的に有名で、部活をやっている連中にはあこがれの存在であっても、俺にとってはただの地元の最寄り高校にすぎないのだ。
そんな俺みたいな生徒だって、この高校に通う意味はある。
甲子園やインターハイなんかの部活関連の応援イベントが多くて毎日がお祭りみたいなものだから、傍観者的立場であっても学校生活は退屈しないし、卒業すれば啓明館学園出身という話題で自己紹介に困らない。
そんな理由で通うやつがいたっていいじゃないか。
実際、俺と同じタイプの生徒は他にもたくさんいる。
下志津奈緒もその一人だった。