終業時刻。腹を空かせたトラックが次々とやってきて、運転手は、身長以上に高く重ねられたケースのタワーを乱暴に積み込んでいく。
 確かに、僕がいくら目を光らせて破損品を取り除いたところで、この積み込みと搬送の過程で、どのみちまた新たな破損品が生まれることだろう。開店前に商品を届けなければならないので、運転手たちも急いでいる。
 深夜。僕は二つの目を光らせ近付いてくるトラックの間を縫い、帰路に就いた。
 砂漠の中のオアシスのごとくきらめく二十四時間営業のコンビニに寄り、並べられたばかりの漫画雑誌を立ち読みして、免罪符としてのクロワッサンを買う。
 多くのパンの中からなぜクロワッサンを選んだのか。それは僕自身にもよく分からなかった。
 確かに、僕の名前はクロワッサンに関連があるといえなくもないのだけれど、僕自身はどちらかといえばその関連性を嫌っているのだ。
 コンビニを出たところで、僕は「ああ、そうか」と気がついた。
 三日月。雲一つない夜空に浮かぶその弓なりの輝きが、まるでサブリミナル効果のように僕の潜在意識を刺激していたに違いない。
 僕はコンビニの袋からクロワッサンを取り出して掲げ、三日月の隣に並べてみる。
 クロワッサン。両端の曲がり具合が致命的に足りないそれは、三日月というよりは日焼けしたサナギみたいだった。
 まあ、クロワッサンをその名の由来通り三日月形に作ったって、現代の流通・販売においてはただ効率が落ちるだけだ。
 たとえばもし人間が弓なりの体形をしていたとしたら、どんなに電車に乗り辛いだろう?
 帰る。帰ろう。僕はクロワッサンを食べながら生活道路を歩いた。
 近所では有名な空き地が見える。かつては大型ショッピングモールが建てられるとのうわさがあった繊維工場跡地なのだが、近くに別のモールが誘致されたせいか、建物が壊され瓦礫(がれき)もきれいに撤去された状態のまま、もう何年も手付かずとなっている。
 僕が小学生だったころ、よく友達と通用門を乗り越え、中の空き地で野球をやった。けれど今ではその門すら取り壊され、空き地全体を取り囲む愛想のないブロック塀と同じ高さの新たな塀で、その土地は封印されている。
 入口を塞がれた、広大な空き地。