その日も雨が降っていた。

鬱蒼とした雲が広がり今にも泣き出しそうに空を覆い尽くしていた。

 今年も終わろうとしていた。
あやは故郷に帰るために部屋の荷物をまとめていた。
彰人も荷造りの手伝いに来ていた。

「わざわざ手伝いに来てもらってごめんなさい。」
あやは申し訳なさそうだった。

「良いんですよ。気にしないでください、、」

「重いものは僕が持ちますんであやさんは運べるものをダンボールに詰めてください。」
彰人があやの方を見るとあやは何かを見ていた。

「あーこれ懐かしいなぁ、、」
あやは昔の友達と写った写真をしみじみと見ていた。

「あれからだいぶ経ったなぁ、、」
あやは何かを思い出しているようだった。

「あ、この写真みて!友達と海に行った帰り、、二人ともピースしてる、、なんだか懐かしいなぁ、、」あやはクスクスと笑った。

 そこにはあやが友達と浜辺でピースサインをしている姿が写っていた。

「この頃は怖いもの知らずで何もかもが楽しかったなぁ、、」あやはしみじみと言った。

「10年前に故郷から出て来ていろんな楽しいことあったけど今日この部屋とお別れするのなんだか寂しい、、」あやは寂しげだった。

「僕も寂しい、、あやさんがこの街から居なくなるの、、」彰人は呟いた。

「彰人さん。またこの街に遊びに来てもいい?」

「うん。良いよ。いつでもあやさんが来るの待ってるから、、」

すると、あやは何かを見つけて黙って見つめていた。


そこにはあやがかつてライターを目指していた頃の記事や原稿が出てきた。

しばらく見ていたあやの瞳からポロポロと涙が溢れた。
その涙が原稿の束の上に落ちては滲んでいた。

「あやさん、、」

「ごめんね。なんか、悲しくなって来ちゃって、、」

彰人はかける言葉が見つからなかった。

「あの頃は期待に胸を膨らませて田舎から出てきてただ、がむしゃらに頑張ってた。夢は叶うって信じてたんだ、、それなのに、、」

彰人はそっとあやの肩を抱いた。

「大丈夫だよ、、あやさんは精一杯頑張ったんだ、、」
「例え叶えられなくてもあやさんは頑張ったんだ、、」彰人の瞳からも涙が溢れた。

 あやは泣き続けた。
涙が枯れるまで泣き続けた、、
彰人にはあやの気持ちが痛いほど伝わっていた。
彰人はただあやに寄り添うことしか出来なかった。
あやは彰人の胸に顔を埋めてその胸で泣き続けたー


 それから彰人はあやを駅に送った。
二人とも何も話すことは無かった。

新幹線の改札口で彰人はあやを見送った。

「元気でね、、」
「あやさん元気で、、」

「彰人さんも元気で、、」
彰人は手を振り笑顔を浮かべていた。

あやも彰人に手を振り笑っていた。

やがて出発便のアナウンスが流れた。

 あやは彰人を見つめると改札を抜けて歩き出した。
やがて人混みの中にあやの姿が消えていきそうになる前に彰人は叫んだ。

「あやさん!必ず会いに行くから!」
「会いに行くから!」

 その声があやに届いたのかあやはこちらを振り返り笑顔を見せると人混みの中に消えていった。

 彰人はその姿を見つめていた。
あやの姿が見えなくなっても彰人はいつまでもいつまでもあやの姿が見えなくなった改札の向こうの雑踏を見つめていた。