ベッドに仰向けに寝転がり、天井を見つめる。目にかかった金髪が眩しかった。

髪を染めたのは、高校に入ってすぐの時。誰かの記憶に残る相馬 夏芽という人間をかき消したくて金色にした。お陰様で悪目立ち。いつの間にか孤立して、そしていつの間にか、その環境にすら慣れてしまった。



視界の端に映る時計は18時を指していた。姉ちゃんは今日は日勤だから、もうすぐ帰ってくるだろうか。静かな室内には、クーラーの稼働音と俺の呼吸音が響いている。


7日間の補習うち、もう三日も休んでしまった。流石にあと2日はちゃんと行かないと成績に響きそうだ。例えば寝に行くようなものだとしても、出席したという事実が大切。そんなことは分かっているのに、どうしたって八月朔日と会うのが気まずかった。


どうしてサボろうなんて提案をしてしまったのか。どうして、聞かれてもいないのに自分の恋愛対象を暴露してしまったのか。ここ二日ずっと考えているけれど、あの日の自分の行動がひとつも理解できない。


八月朔日 鈴。初めて名前を見た時、レイと同じだ、と思った。鈴と書いてレイ。俺が好きだった、好きになってしまった男の名前。人の名前を覚えるのは苦手だったけれど、八月朔日という珍しい名字も相まって、彼女の名前は直ぐに覚えた。



補習初日、八月朔日に似顔絵を見られた。暇つぶしに手癖で描いていた木下先生の横顔。木下先生は去年の担任で、姉ちゃんと二人暮らしをしている俺をよく気にかけてくれていた。昔レイに抱いていたような感情ではないけれど、木下先生のことは嫌いじゃなかった。


八月朔日があまりにもきらきらした瞳で、俺の描いた落書きを見つめてくるから。初めてレイに似顔絵をあげた日の記憶が蘇って、泣きそうになってしまったのだ。

八月朔日なら、大事にしてくれるかもしれない。俺の絵を、俺よりもずっと大切に扱ってくれるような、そんな直感があったのだ。


八月朔日に会うのが気まずい、という表現は果たして正しいのだろうか。俺はただ、拒絶されることから逃げているだけなのではないかとふと思う。

わかってもらいたかった。勝手な期待だとしても、俺を、分かってほしかった。八月朔日 鈴なら、と。まともに話して数日の人間に、俺はこんなにも期待してしまっている。



俺は男を好きになる。そう伝えた時、八月朔日は「素敵なことだと思う」と言った。気持ち悪いと笑うことも、瞳で嫌悪を伝えてくることもせず、ただぼんやりと空を見つめ、そう言ったのだ。


八月朔日 鈴は、俺にとってはあまりにも眩しすぎる。


俺が普通の男だったら、いつか八月朔日のことを好きになっていたのかな。そう思ったら悲しくて、悔しかった。どうにも出来ない。どうにもならない。



────それでも、どうにか出来たなら。