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12月30日、時刻は21時を過ぎた頃。
「はっぴばーすでーとぅーゆー」
「うわぁあなんか来たぁ」
風呂に入り、部屋着に着替え、マフラーとケーキを持って徒歩5分の距離にある素花の家に向かった。アポ無し凸でも怒られないのが幼馴染という関係性の良さだと思う。
すっぴんはもう何百回と見た。素花に彼氏がいて「すっぴんなんか見せらんない」と嘆いていた頃が懐かしい。俺からしたら素花の化粧は派手すぎず控えめ過ぎず程よいから、すっぴんになったとてあどけなさが顔を出して可愛いと思う程度であるが、それを伝えて発生するメリットが無いから口にしたことは無い。
俺は素花の、何者でもない。
大丈夫だ、わかっている。
「どしたん尚、わざわざ届けにくるなんて初めてじゃん。明日は雪かぁ?」
「この時期の雪ってそんなに珍しいもんじゃねえだろ」
「間違いなさすぎた」
玄関先は寒いからと中に入れてもらった。素花は誕生日に人と予定を入れたがらない、少しばかり珍しい人種だった。家で家族とゆっくり過ごすのが好きだそうだ。
俺は幼馴染だから気を使わなくていい、と素花はいつも俺に言う。その棘で刺されたのはもう何度目だったか、数えるだけ無駄でやめた。
「てかケーキって。それこそ初じゃん?どしたぁ、まじで」
「バイト帰りにたまたま気が向いただけ。ケーキ屋の子供が俺と同じ名前だった」
「ナオ?」
「そう。母親がそう呼んでた。なんか運命ってやつな気がして買っちゃったわ。ホールは売り切れだったけどさ」
「ねえそれさ、ナオキとかナオトとか説も捨てきれないよ」
「うわ、たしかに」
テーブルの上にふたつケーキを並べ、2と1の蝋燭《ろうそく》を2本並べた。俺があげたばかりのマフラーをブランケット代わりに膝にかけているのを見て、実用性あるものは良いなと思った。プレゼントを開けてすぐ「AirPodsじゃなかったかぁ」と言われたことはもはやご愛嬌である。
「21歳だってさ。あっという間すぎて引く」
「そーね。おまえの誕生日来ると同時にほぼ年明けるし余計に」
「毎年言ってるやつだ。ほんと年末嫌いだよね尚って」
「寒いし」
「冬耐性弱いな」
年末は嫌いだ。今年も変われなかった自分を嫌でも自覚する。代わり映えしない平日。人間の三大欲求もろくに消化できていない。好きな女に告白する勇気もでないまま今年も彼女の誕生日を迎えた。
明日で今年が終わる。



