緊張しているのは何故なのか。頭の中で思い浮かべた言葉が文として成り立たないまま音になる。少年の眼差しが眩しい。
そのだんじょうびケーキっていうのは何号のホールケーキで何味ですか。ネームプレート書いてもらえますか。全部詳細に聞いたうえでそのケーキを購入すると決めたとて、たかが幼馴染の俺がホールケーキを買うのは重いですか。ケーキならまだ、ゆるされますか。
21歳の誕生日──たかがケーキで、俺と素花の関係は変わると思いますか。
「おにいちゃん、チョコになまえ……」
「まってナオ、ホールケーキはさっきもうないってパパが」
「え~っ!?」
……ああ、またくだらないことを考えてしまった。
少年と母親のやりとりを聞き、ハッと我に返る。ふと少年の瞳と目が合う。潤んだそれは俺の代わりに流れてくれているようにすら感じた。
「申し訳ございません……ホールケーキ、さっき全部売れちゃったんです」
母親が申し訳なさそうに言うので、俺は「いえ、それならいいんです」と無理やり口角をあげた。素花との関係に見返りを求めるだけ無駄なのだ。良い、むしろこれで良かった。危なく素花との間に変化を求めてしまうところだった。
「ごめんなさいね……」
「いえいえ。じゃあ、えーっと……チョコレートケーキとショートケーキ、ひとつずつください」
「あらあら、すみません。ありがとうございます。ご自宅用ですか?」
「あー…、はい、自宅用で」
バイト続きで脳が疲れていたんだきっと。帰ろう。帰って部屋着に着替えたら、プレゼントにと買っておいた素花の好きなブランドのマフラーを持って家に向かおう。「暇だから来てやったわ」って偉そうに言ってやろう。
俺は今年もそんな理由でしか、素花に会いに行けない。



