「てか話変わるけどさ、尚、就活いつからはじめる予定?」
「わかんね」
等々に問われた質問に雑な返事をすると、「私も」と返された。
素花の一人称は音が繋がって「わたし」が「わし」に聞こえる時がある。それが昔からひそかに気に入っているということは墓場まで持っていくつもりだ。そんなこと言ったとて、何にもならないから。
「そろそろ始めないとまずいかなぁ」
「素花はなんだかんだうまくいきそうじゃん。コミュ力あるし」
「尚からしたらそうかもだけど、周りに比べたら言うほどないよ。あーあ、やだなぁ、髪もネイルも辞めなきゃいけないのとか、生きるモチベない」
素花が机に上半身を倒し、自分の腕に顎を乗せた。生え際から地毛の黒が垣間見えるラベンダーアッシュとかいう色の髪。大学生になってから随分と痛めつけている気がするが、それで可愛さには抗えないとかなんとか言っていた。顔を合わせるたびに変わる素花の髪色が、俺は嫌いじゃない。
就活をはじめたら、そのうち素花の髪も真っ黒に染まってしまうのだろうか。そう思ったら少しだけ寂しくなった。
「あーあ。自分のこと嫌いになりたくないなー…」
俺も、これ以上何もない自分を認めるのは嫌だな。声には出さず心の中で返事をする。素花は数秒俺を見つめ、それから。
「尚もさぁ、しんどくなったら泣きついてきていいよ」
そう言って口角をあげて笑った。全部見透かされているみたいで恥ずかしかった。