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「やっぱさぁ、Air Pods便利だよねぇ」
木製のテーブルに肘をつき12月の最終講義までに提出しなければならないレポートの作成をしていた俺に、向かいに座る女が唐突にそんな話題を持ち掛けた。
女の名前は素直な花と書いて、素花。俺の幼馴染であり、かつ数少ない友達のひとりに値する。
「性能的にはProのが良いんだけどさあ、値段で言ったら初代が妥当だよねぇ。初代の方、ノイキャンないらしいから。電車とかめちゃくちゃ煩いって、友達が言ってたんよぉ。いやあでも、イヤフォンに3万って痛くない?」
レポートの調べものをしたページのまま開きっぱなしだった俺のiPhoneが、Air Podsの開閉によって反応する。充電、右86%、左70%。両耳分同時に充電しているはずなのになんで差異がでるんだろう。Air Podsを使い始めて1年弱。未だ消えない疑問である。
「尚は、なんでAir Pods買ったんだっけ」
「誕生日に、兄ちゃんが」
「あーね。いいなー、私の誕生日にも誰かくれんかな。12月30日なんだけど」
「こっち見んな。買わねーよ」
「だめかぁ」
「だめです」
「くっそー…」
12月30日。シフト希望を出した日だ。時給アップ対象の初日。
俺と素花は付き合っているわけでもその予定があるわけでもないただの幼馴染かつ友人であるが、十数年来の仲だから、一応プレゼントは毎年あげるし俺ももらっている。お菓子だけの年もあれば持ち運び充電器やユニクロのトレーナーの年もあったが、さほど高価なものではなかった。
Air Podsは、例年の流れからすると少し高い。