色々な意味で、時間は残酷だ。ソファに腰掛けて、陽向と一緒に買ったクッションを抱き寄せる。テーブルには、朝まで一緒だった彼の飲みかけのカフェオレが入っているマグカップが残ったままで、その隣にはオレンジジュースを飲んだ後の私のグラスが佇んでいる。
陽向だけの物だったこの一室も、いつの間にか私の物が随分と増えた。一つ、また一つと自分の物が彼の部屋に増える度に優越感を覚えて、胸が弾だ。それは今だって変わらない事だ。
大学四回生になった私達は、それを機会にこの部屋で同棲する様になった。提案してくれたのは彼の方で、「四回生になると就活や卒論で生活が擦れ違いになりそうだから、せめて家にいる時間は祈ちゃんと一緒にいたいな」愛している人にそう云われてしまっては断る理由もなく、彼の提案を笑顔で快諾した。
そうして幕開けた彼との同棲生活は実に順調で、とても充足していて、とても楽しい物になっている。同棲すると恋人の嫌な部分が癪に障る様になって喧嘩の火蓋が切られるなんて情報をサイトで見た気がするけれど、彼とは喧嘩らしい喧嘩をまだしていない。
「陽向、今日は何時に帰って来るかな。」
一つ屋根の下で寝食を共にする様になってもうすぐ四ヶ月が過ぎようとしている。大雨に打たれて二人して凍えながらこの部屋に訪れた時から、随分と季節も巡って、また今年も貴方を失った夏を迎えた。
こうしてソファに座ってぼけっとしている傍から、刻々と時は流れていく。彼と初めて純喫茶で邂逅した日がもうそこまで迫っている。
「今日はチキン南蛮にしようかな。早く帰って来てよ、陽向。」
暗くなったテレビ画面に反射している自らの姿は酷く寂しそうだ。私は、独りの時間が好きじゃないのだ。だって独りになると、どうしても陽向にも貴方にも抱いている己の情愛について考えてしまうから。