こんなにも私を愛してくれているのに、私の過去を知った上で全てを包み込んでくれているのに。そんな彼をまるで裏切ってしまった様な気がして、辛かった。陽向を陽光だと錯覚して胸を高鳴らせた自分を憎んだし、素直に愛おしいと感じてしまった自分を責めた。


責めて、責めて、責めて、責めて、それでもやっぱりあの時私が陽光を愛していると想ったのは変えようの無い現実で、陽向の澄んだ蜂蜜色の双眸と視線が合うのが恐かった。何もかもを見透かされて、愛想を尽かされて、棄てられてしまうのではないかと不安ばかりが募った。


自分が一番悪い癖に、悲劇のヒロイン面している自分がもっと嫌いになった。



「分かんないよ…もうどうして良いのか分からないよ。」



ポタポタと垂直に落下する雫が乳白色の水面を叩く。近頃の私は、こうして浴室で声を殺して泣いてばかりだ。泣く資格もないのに、めそめそしてウジウジして自分を可愛がってばっかりだ。


浴室に設置された棚に並んでいる二種類の洗顔料。シャンプーは同じだけれど、コンディショナーだけは種類が増えて、掛けられているあかすりタオルも一枚から二枚になった。

脱衣所兼洗面所には、歯ブラシが二本並んでいるし、バスタオルの枚数も増えて、洗面所の鏡を開くと中には私が普段使いしている化粧道具が陳列されている。


涙が枯れた頃、お風呂から上がりバスタオルに顔を埋めれば、陽向の甘い甘い香りが鼻腔を掠めて胸がキュンと鳴る。これだけでも愛おしくて仕方がないのだ。


バスタオルを広げて包まれば、まるで陽向に抱き締められているかの様な錯覚を抱く。私の全身を彼の香りが独占して、自然とだらしなく頬が緩んでしまう。すっかり常備される様になった自分の身体のサイズの服に着替えて脱衣所を後にする。



白を基調としているリビングは、シンと静まり返っていた。