この世で一番愛おしい体温と香りに満ち満ちた世界で、瞼を持ち上げた。パチパチと数回瞬きをすれば、淀んでいた視界がはっきりしていく。そして漸く鮮明になったそこに映ったのは、スヤスヤと寝息を立てる彼の美しい寝顔だった。
ベッドの中、いつもより濃く彼の体温や香りを感じるのは、私達がどちらも服を身に纏っていない姿だからだ。ドクドクと生命を刻む心臓の音も心なしかいつもよりよく聴こえる。
彼を起こさずに自分の態勢を変えようと試みたその刹那、下腹部を鈍痛が貫いて私はその場で目を見開いて声が出ない様に必死に堪えた。
痛みなんて嫌悪感しかないはずなのに、この痛みばかりはちっとも嫌悪感を覚えない。寧ろ愛おしくて仕方がない。嗚呼、昨日の情事は夢ではなかったのか。当たり前なはずなのに、鈍痛を覚えて初めてその事実を実感する。
今は一体何時なのだろうか、この部屋の窓は南東を向いているらしいからきっとレースカーテン越しに入り込む陽射しは朝陽なのだろう。
「どうしよう、もっともっと陽向を好きになってしまってる。」
身体を繋ぐ前と後ではこんなにも感情が違うものなのかな。少なくとも私の心は陽向への恋情と愛情に溢れていて、もう心だけでは容量が足りず、頭の先から爪の先に至るまで文字通り全身に「好き」と「愛してる」が巡っていた。
陽射しに翳された長い睫毛の影が、これでもかと頬に伸びている。毛穴一つないたまご肌なそこを指先でちょんと突くだけで、胸がキュンと音を立てる。
髪と同じ色をしている彼の唇に、数え切れない接吻を刻まれた。これでもかと沢山愛撫された。余裕がないと云っておきながら、彼の手付きはまるで宝物を扱うかの様に丁寧で優しかった。
思い出しただけでこそばゆくなる。だけどついつい真新しいその記憶を引っ張り出して余韻に浸ってしまう自分がいる。