首筋に埋められた相手の唇。私の喉元を這う熱い舌の感触に、鼻に掛かった様な甘い声が自然と漏れる。まるで自分ではない赤の他人みたいなその声に恥じらいを覚えて頬が熱くなる。
丁寧に丁寧に首筋を愛撫した彼の体温が離れた途端、寂しくなって「もっと欲しかった」なんて想ってしまう。ベッドに沈む私へ視線を落とす陽向の顔には悪戯っ子さながらの笑みが浮いていた。
「秘密。」
「へ?」
「この傷は僕の秘密なの。」
「……。」
「でも、そのうち祈ちゃんも分かるよ。」
「私?」
眉を顰めて怪訝な顔をした私の質問に、相手が深く頷く。依然として悪戯な艶笑はぶら下がったままだ。微かに震え続けている私の額や頬や唇や腕にチュッと甘い口付けを刻んだ彼が、最後に耳朶を甘噛みした。
静電気が走った時と似た感覚に「あっ」と短く声が出る。猫撫で声にしか聴こえないと云うのに、彼は「可愛い」と形容して恍惚とした表情を見せてくれる。
「時が来たらちゃんとお話するから。僕の気持ちが固まった時に、ちゃんとこの秘密を祈ちゃんに打ち明けるから。だからどうかその時まで、待っていて欲しいな。」
桜色の髪を揺らした彼が、すぐに散ってしまう桜の花弁の如く美しく儚く微笑むから、私は彼が消えてしまわない様に華奢な腕を引き寄せて、崩れ落ちて来た彼の身体を己の胸の中に閉じ込めた。
「勿論。いくらでも待つよ、陽向の心の準備が整うまでどれだけでも待つ。」
「…っっ…祈ちゃん。」
そもそもデリカシーのない質問をよく考えもせずに投げた私が悪いのだから、陽向がそんな表情をする必要もないし、陽向が申し訳なく思う理由だってこれっぽっちもない。