胸が痛い。どうしようもなく痛い。気管がどんどん絞まっていく感覚に襲われ、呼吸が苦しくなる。そんな私を救ったのは、私の両頬に触れた今にも融解してしまいそうな熱い体温だった。
我に返った世界で視界に映るのは、穏やかに艶笑を湛える愛おしい恋人の顔。何だかまるで私の心を全て見透かしているかの様に蜂蜜色の眼を細めた彼が「分かってるから泣かないで祈ちゃん」と言葉を紡ぐ。
無条件に与えられるその優しさに余計に涙が溢れ、あっという間に相手の美しい顔が歪んでいく。
「祈ちゃん、愛してるよ。」
「私も、陽向を愛してる。」
「うん、ありがとう。」
唇が塞がれて、私はそれを受け入れた。いつもみたいに重なってすぐに離れるそれではなくて、どんどんそれは深くなっていく。唇を割く様に侵入してきた彼の熱い舌に自らの舌を捕らわれた瞬間、更に体温が上昇した。
熱い。熱い。熱い。だけど、それ以上に気持ち良い。ドロドロに思考も脳も溶かされてしまう様なこの温度に、陶酔する。
彼に押し倒されて傾いた自分の身体が、再びシーツへと沈む。頬から首筋へ、首筋から胸元へと滑り落ちる相手の手は、いつも以上に優しさに満ちていた。
「…んっ…。」
「あのね祈ちゃん。」
「な…に…。」
「僕、こう云う事をするの初めてなの。だから正直に云うと、上手にできる自信がない。祈ちゃんが痛い想いをしてしまうかもしれない。」
「うん。」
「それでも、祈ちゃんの身体に触れたいと想ってしまう。祈ちゃんの体温を直に愛したいと想ってしまう。だから…だから…「うん、良いよ。」」
戸惑いを顔に浮かべる相手の台詞からは、彼の誠実な人となりが痛い程に伝わった。眉を下げて頬を緩めた私は、相手の言葉を遮ってそのまま彼の唇へと触れるだけの接吻をした。