外は依然として雨模様みたいだ。窓を閉め切った室内からでも、雨の音が耳に届く。窓の方へ歩み寄って、遮光カーテンを捲り外の様子を伺っていると背後から身体を抱き寄せられて「きゃっ」と声が漏れた。



雨に気を取られて全く背後を気にしていなかったから驚いた。シャンプーの香りがする桜色の濡れた髪が、私の首や頬に掛かる。私の腹に回された腕にはぎゅっと力が込められて、互いの身体がぴたりと密着する。

視線だけを横に滑らせれば、陽向の美しい顔が私の肩に乗っていた。相手の長い睫毛の一本一本が確認できる程に近い。さっき少しだけ青くなっていた唇には血色が戻っていて、心の中で安堵の息が落ちる。



「陽向。」

「ん?」

「ごめんね。」

「何が?」

「陽向が雨予報だからって忠告してくれてたのにそれを忘れた挙句、待ち合わせの場所でびしょ濡れになって陽向まで巻き込んでしまってごめんね。」

「ふふっ、そんな事?全然気にしてないから謝らないで。」

「それから…。それから……裏門で身勝手な発言をしてごめんなさい。もしあの言葉が陽向の重荷になる様ならすぐに撤回したい…「嬉しかった。」」



意を決して開口したと云うのに、彼の口から想定外の台詞が飛び出したせいで拍子抜けした声がそのまま落ちてカーテンに吸い込まれる。カーテンを掴んでいた私の手の上に、彼の体温がそっと重なった。

ドキリと、心臓が脈を打つ。この人が好きだと心が嘆く。彼を愛していると全身が叫ぶ。



「凄く嬉しかったのに、撤回されると悲しい。」

「……っっ。」

「ねぇ、祈ちゃんこっち向いて?」



相手の腕の中で身体を反転させた途端、切り替わった視界を陽向の麗しい顔が独占する。口許に弧を描き、目を細めた彼がまだ乾いていない私の髪を掬って口付けを落とした。