複雑な気持ちが晴れぬままお風呂から出ると、部屋は暖房が効いていてテーブルには湯気を揺蕩(たゆた)わせているマグカップが置いてあった。



「カフェオレ?」

「うん、身体冷えただろうから温めてね。」

「あのね陽向…「それじゃあ僕、お風呂入って来るからゆっくりしてて。」」



「さっきの言葉が重荷になっているなら取り消したいの、ごめんね」そう続けたかったけれど、彼に声を遮られて思わず口を噤んでしまう。浴室の方へと消える濡れたままの相手の華奢な背中に、胸の奥が締め付けられる。


自分だって寒いはずなのに。陽向だって風邪を引いても可笑しくないのに。私がお風呂に入っている間、着替えもせずに部屋を暖めて更には温かい飲み物まで用意してくれていた彼の優しさに視界がまた滲んでしまいそうになる。



「美味しい。」



ワンピースみたいになってしまっているシャツから伸びる膝の上に手に取ったマグカップを乗せる。線が細くて華奢な陽向だけど、やっぱり彼はれっきとした男なのだと自分の身体には大き過ぎる彼のシャツを着て改めて実感する。



「陽向の香りがする…落ち着く。」



袖口に鼻を寄せれば、ふんわりと甘くて柔らかな彼の香りが鼻腔を潜り抜けた。