会話らしい会話はなかった。横殴りの雨の前では傘もあってない様な物で、揃いも揃ってずぶ濡れになって体温を奪われた私達は、陽向が生活を営んでいるマンションの一室に帰宅した。


当たり前だけれど、どこもかしこも陽向の甘い香りで充満している。この空間に胸がキュンとなるし、私はこの空間が自分の部屋よりも好きだ。


白い床に白い壁。白で統一されているインテリア。シンプルだけれどどこを切り取ってもお洒落な所に陽向らしさが詰まっているなと毎度感じる。静寂が漂う中、唯一ポタポタと響く音は、私達の服から落ちた雫が玄関のタイルに落ちるそれだ。



「先に祈ちゃんお風呂に入って。バスタオルと服は僕が準備しておくね。」

「う、うん。」



やっと言葉を交わせたかと思ったけれど、陽向が視線を合わせてくれない。繋がっていた手が解かれ、それに寂しさを覚えつつ、私は彼に促されるがまま浴室に向かった。

熱いシャワーに当たって初めて、私は冷静さを取り戻した。何て事を口走ってしまったのだろうか。陽向に引かれてしまったかもしれない。遅過ぎる反省会が脳内で開催される。穴があったら入りたいとはまさにこう云う状況の事を指すのかもしれない。


あんな発言をされて、困惑したに違いない。直接的ではないにしろかなり大胆な言葉を紡いでしまった。どうしよう、嫌われてしまったら。どうしう、付き合い切れないって愛想尽かされてしまったら。



「…馬鹿だ。馬鹿だなぁ私。」



ここに来るまでの道中、かなりぎくしゃくしていた自分達の姿を反芻すれば、胸が針で刺された様な痛みを訴える。シャワーから出るお湯よりも熱い雫が目尻から落ちていった。