陽向と交際を開始して、五ヵ月になった。彼との恋愛は傍から見ると順調そのものに映るだろうし、私自身もとても充足を感じている。殆ど毎日彼と顔を合わせていて、特別何かをする訳でもないけれど私達はずっと一緒にいる。


彼が隣に居てくれるだけでこれ以上にない安堵感を覚えるし、彼とさようならをする時は五ヵ月経った今でも酷い寂寞感を抱く。もっともっと、ずっとずっと、陽向といたい。自分がこんなにも寂しがり屋で弱虫な人間だったなんて、陽向に恋をしなければ一生知る事もなかっただろう。


ただ、私はこの頃ちょっとした苦悩を抱えている。



『何だかこの映画、不気味なのに美しかったね。中毒になっちゃいそう。』

『僕もこの世界観にすっかり魅了されちゃって、もう何度鑑賞した分からないの。祈ちゃんも気に入ってくれて嬉しい。』



これは先週の話だ。彼が独り暮らしをしているマンションの一室で私達は映画鑑賞をした。陽向の家に行くのはこれが初めてではなかったけれど、その日の私は初めて彼の部屋を訪れた時と同じ位…もしかするとそれ以上に緊張していた。


何故ならその日は、そのまま陽向の家に泊まる予定だったからだ。恋人が独り暮らししている空間で二人きり。それも一つのベッドで夜を越す。そんな条件が揃うとなると、必然的に彼とのそう云う行為を期待してしまう自分がいた。


いよいよ初めてを誰かに捧げる事になるのだ。好きな陽向と素肌と素肌を重ねるのだ。(よこしま)な想像を脳内で広げられるだけ展開させた私の緊張感は、秒針が進むのに比例して高まっていった。



『おやすみ、祈ちゃん。』

『え。』

『ん?どうかした?』

『へ?う、ううん!何でもないよ!おやすみ。』



けれどいざ蓋を開けてみると、破廉恥な期待を寄せていたのはどうやら私だけだった様で、同じベッドに潜ったにも関わらず陽向は私と手を繋いで身体を抱き寄せてくれるだけで、口付けすらしないまま朝を迎えた。