動揺を隠しきれないでいると、チュッと音が鳴ったと同時に私の額に彼の温もりが触れるのを感じた。脊髄反射で動いた双眸が捕らえたのは、相手の呼吸が分かる距離にまで迫った陽向の端麗な顔。

彼の睫毛が私に触れてしまいそうだ。それ位、彼の顔が近い。



「祈ちゃん。」

「な、なに。」

「好きだよ。」

「んっ…。」



返事をする隙も貰えぬまま塞がれた唇に伝う体温で、脳が蕩《とろ》けてしまいそうになる。だけど決して嫌ではなくて、寧ろすぐに離れてしまった彼の唇がすぐに恋しくなった。

ちょっとだけ強引に接吻《きす》をした犯人は陽向なはずなのに、何故か私よりも彼の方が頬を紅潮させていて照れている。



「陽向、頬真っ赤になってるよ。」

「…初めて…だったから。」

「え?」

「誰かに恋するのも、こんなに誰かを好きになったのも、誰かと付き合うのも、全部祈ちゃんが初めてだから。恰好付けたいのに、全然恰好付かなくて困ってる。」



眉を八の字に下げて情けなさそうに溜め息を吐いているれど、彼の初めてが私だと云う新事実に驚きと喜びで脳内が大混乱に見舞われた。だからなのだろう。



「恰好良いよ。陽向に、ドキドキしてるもん。」



気付いた時には、とんでもない言葉を口から落としてしまっていた。