陽が落ちたにも関わらず、一切衰えていない暑さが外に出た私達を待っていた。そう云えば、朝の天気予報で暫く寝苦しい熱帯夜が続くとお天気キャスターが注意喚起していたっけ。
エアコンの効いていた快適な空間から出た反動もあってなのか、日中よりも蒸し暑く感じる。気持ち程度に吹いている風は暑さを和らげてくれる働きを放棄していて、寧ろ全身に纏わり付いて、歩く度に毛穴から汗を浮かせる。
一人だったらこの不快な要素だらけの環境に顔を顰めていた事だろう。けれど今の私には、この環境すらも不思議と気持ち良く感じてしまう。
それもこれも、きっと隣にいる彼のおかげだ。彼の綺麗な横顔を一瞥して、しっかりと繋がれた互いの手へ視線を投げる。黄昏時を迎えるまでは拳二つ分あった私達の距離は、すっかり自然消滅してしまっていた。
「これからは、祈ちゃんをお家まで送らせてね。」
純喫茶を辞す直前にそう放って嫣然《えんぜん》とした笑みを湛えた彼が、私の指を絡め取ってぎゅっと握った時は心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思った。
心の奥が擽られる感覚があったけれど、彼の台詞が率直に嬉しかった。頬を火照らせながらコクリと頷けば、彼も分かり易く赤面させていてそのいじらしい姿に自然と頬の力は緩んだ。
「今日の純喫茶巡り、楽しかった。」
「僕も。祈ちゃんと行けて、楽しかった。」
「次は何処に行こうか?」
「うーんいっぱいあるけど、祈ちゃんとなら何処に行ってもきっと楽しいね。」
「……陽向。」
「ん?」
「好き。」
「…へ?……え、ちょっと待って…急にそんな可愛い事云わないで。」
「嫌だ。云いたい時に云う。」
「そんな事されたら、僕、心臓持ちそうにないよ。」
「それは駄目。陽向の心臓は動き続けてくれなきゃ嫌。」
「ふふっ。」
「あ…我が儘ばかり云ってごめん、困るよね。」
「全然。祈ちゃんが我が儘云ってくれて嬉しい。」