顔も違うし、髪色だって違うし、声色だって違う。まるっきり違う。別人だ。それなのに、それなのに私の脳味噌は、間違いなく彼を陽光だと錯覚してしまっていた。
息を呑んだ。目を見開き、常識的な思考を忘れ初対面の彼を一直線に凝視した。
驚きと動揺のせいか、手から滑り落ちた硬貨がチャリンと地面に落ちて転がった。
「あ…。」
硬貨の音で漸く正常の思考が働き始めた私が慌ててそれを追いかける。
目と鼻の先まで追いついたそれは、私の手に握られる事なく伸ばされた別の人間の手によって拾い上げられた。
「はい、どうぞ。」
「……。」
差し出された手には450円がしっかり乗っていた。その手を辿り、相手の顔へ視線を伸ばす。桜の花が咲いている様な派手な髪色が、空調の風に晒されて揺れている。
髪色と同じ色をした唇に弧を描いた彼はやはり、貴方とは違うはずなのに、貴方に見えた。
「ありがとう…ございます。」
「どういたしまして。」
ふふっ、ととても柔らかな声を落とした彼にドキリと心臓が脈を打つ。
『ねぇ、祈。俺、大学生になったら髪をピンクにする。』
『はぁ?急に何なの。ていうかピンクってまた派手だね。』
『祈が好きな色だから。』
『え?』
『祈、ピンク好きでしょう?だから俺、大学生になったら髪ピンクに染める。そしたら俺の事、好きになってくれる?』