薄暗かった外の世界は夜が訪れていて、真っ暗になった空には三日月がぶら下がっている。純喫茶の店内は依然として貸し切り状態で、優雅なクラシック音楽だけが私達の無言の時間を助けてくれた。
「今にも消えてしまいそうな程に私の横顔が儚くて、私の時折見せる悲しみに溺れた様な表情が気になった。そう云って陽向が学食のテラス席で話し掛けてくれた時、驚いたけれど嬉しかったの。」
「え?」
「陽光を想って悲しみに沈んでいた私を綺麗だと陽向が云ってくれたおかげで、初めて彼を失った傷が癒された。生きていて良いのかなって想えた。」
「祈ちゃんにそんな過去があったなんて考えもせずに、無神経に綺麗だって口走ったのに?」
「うん。それでも嬉しかったよ。ただね、陽向が好きだと想ってくれている私は、陽光を失った悲しみの影が落ちている私なんだ。」
「……。」
「こんな風に云っても軽々しく受け取られてしまうかもしれないし、理解もしてもらえないかもしれないけれど…。」
「けれど?」
「私ね。」
“陽向に恋しているし、陽向が好きだよ”
桜色の前髪越しにこちらを見つめる蜂蜜色の双眸を捕らえて、満面の笑みを涙に濡れた顔に咲かせた。
きっと、彼に振られるだろう。陽光と云う人物を忘れられない自分には、それでも好きだよと云って貰える魅力も取り柄もない。ただ、後悔はなかった。陽向には陽光の話をしたいと想ったし、知っていて欲しいと想った。
だから微塵も、後悔はない。後悔をしない生き方をするって、あの日貴方を失った日に決めたから、私はこの選択に胸を張れる。