私が陽光との対面を許可されたのは、翌日の昼過ぎだった。ICUから個室の病室へと移された陽光の身体は沢山の管で繋がれていて、僅かに生命を繋いでいる状態だった。変わり果てた幼馴染の姿。

ただ眠っているのではないかと疑いそうになる程に瞼を伏せている彼は美しくて、擦過傷を負った手を握れば温もりが確かにあった。



『おばさん…おばさん、陽光は…。』

『…っっ、脳死なんだって。』

『…っっ…。』

『吹き飛ばされた時に脳にかなりの損傷があったらしくてね、もう脳味噌が機能していないらしいの。信じられないわよね?だって見て、骨も折ってなくて掠り傷だけなのよ?眠っているだけよねきっと…そうよね…そうじゃなきゃ…可笑しいじゃない。だって陽光は…陽光は…昨日まで普通に生活をしていたんだもの。』



疲弊し切った顔を涙でぐしょぐしょに濡らした彼の母親が、息子の手を握り締めながら膝から崩れ落ちていく。点滴で繋がれた彼の温かい手を自らの額にあてがいながら、白い地面に水溜まりを作った。

その絶望的な景色を、私は立ち竦んだままただ眺める事しかできなかった。おじさんやおばさんや海里に駆け寄る事なんてできなかった、背中を擦って気の利いた言葉を紡ぐなんて思考は巡らなかった。


鈍器で思い切り頭を殴打された様な衝撃と、心臓をナイフで貫かれた様な痛みに襲われた。私のせいだ。私が「アイスクリームが食べたい」なんて言ったばっかりに、優しい陽光が犠牲になってしまった。


私が行けば良かった。彼の背中に抱き着いて引き止めて、代わりに私が行けば良かった。遅すぎる後悔が、残酷な程に募っていく。



『嘘だって云ってよ。揶揄っただけだって笑ってよ…陽光。』



この日。大切な温もりが、声が、優しさが、私の前から一瞬にして消え失せてしまった。